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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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「あばよ。」
 
 起死回生の一手とばかりに、手を振り上げる男の動きがスローモーションの様にゆっくりと見えた。

 リルラが咄嗟に投げつけたナイフが男の肩に刺さったが、顔を歪めながらも指輪を叩きつけようとしているのは止められていない。
 
 《このままでは、再び逃げられる。》

 焦るリルラと裏腹に、男の顔に余裕が見て取れた。

「ロクっ!」

「あいよっ!」

 アオイの怒鳴りにロクが飛び出した。

「逃さねーよ。」

 一瞬で、男の懐に入ったロクは、腕を掴むとと顎を押し上げた。

「ぐぅそ!」

 悔しがる男は、踠きながらも指輪を地面に力無く落とした。

コロンっ・・・

 衝撃も少なく、転がり落ちた指輪をリルラが素早く拾い上げる。

「これは・・・。」

 言葉をなくすリルラにアオイが、心配そうに近づいてきた。

「何か、問題が?」

 ロクに締め上げられている男にリルラは指輪を突きつけた。

「お前はこれをなんだか知っているのか?」

 視線を逸らす男をリルラは思わず鼻で笑った。

「アオイ様。
 この男は、これを目眩しか何かだと思っている様ですが、これは言わば毒です。
 毒霧が発生し、使用者諸共、周囲の人間が巻き込まれる仕組みになっています。
 かつて、奴隷として暗殺部隊に所属していた私には馴染みの道具ですよ。
 この、宝石が割れずに済んで何よりでした。」

 警戒しながらも指輪を覗き込んでいたアオイは、男に視線を向けた。

「命を経とうとしたか?」

 それに対してリルラがすかさずに否定をした。

「それは違います。
 金か欲か、はたまた狂楽か・・・この男に忠誠心などありませんよ。
 こうやって、口封じの準備までしているのです。
 雇主も、それが分かっているのでしょう。
 ご覧下さい。
 この、顔を・・・。」

 リルラのいう通りだった。

 口封じと聞き、口をパクパクとさせ唖然した男は指輪の真の効果を知らされていなかったのだ。
 煙が出たら、瞬時に移動ができる代物と教えられていた。

「・・・毒霧。」

 口を噤む男の顔が、みるみると憤怒に染まっていく。

「あの、年増のクソババァめ!」

 口汚く罵る男をロクが地面に押し付けた。

「黙れっ!!
 グランヌスにしたら、お前も同じ穴のムジナッスよ。
 年増のババァに良い様に転がされた、マヌケがつくッスけどね!」

「取引だっ!
 の事を話す代わりに・・・。」

 打って変わって、焦り出した男を見下ろすとアオイは冷え切った目で睨みつけた。

「言ったはずだ。
 子の命を危険にさらされている母を舐めるな。
 貴様など、取引などせずとも、情報を吐かせてみせるわ。
 楽しみにしておれ。
 ひったてい!!」

 すると、岩陰から、続々と隠密が現れ男を取り囲んだ。

 ーーーあぁ、最初から逃げ道などなかったのか。

 男はガクっと肩を落とすと引きずられる様に連れて行かれたのだった。


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