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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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しおりを挟む「まだ目覚めぬのかっ!」
離宮に焦ったような怒号が響き渡る。
「医者は?回復魔法の使い手は?
王宮には、この国1番の人材が揃っていながら姫巫女様を治療する事すらできぬのか!?」
先ほどから狂ったように怒りを見せているのはツユクサと呼ばれる筆頭侍女であった。
「ツユクサ様・・・どうぞ、落ち着いてくださいませ。
只今、王の侍医にも離宮に参る様に申し付けてございます。」
宥める侍女・オモトも顔色が悪い。
昨夜、姫巫女が奇声を上げて気を失ってから一向に目覚める気配がない。
王へ使いを出したところ、1度は様子を伺いに来たが、その後は姿も見せない。
「王は?王は何をしておられる?」
怒り心頭のツユクサに周りの侍女達が怯えていた。
「昨夜は後宮の王妃様の元へ参られました。
その際、剣を握りしめていたと報告が・・・。」
王が剣を手に後宮に押し入った。
ツユクサにとって、この数時間の内で1番晴れやかな報告だった。
「それで?
後宮は騒がしくなったのだな?」
「はい・・・。
宰相殿への報告では後宮で大暴れされた後に自室に篭られたと・・・。」
もはや、王宮の情報は、この離宮に筒抜けだった。
早く、王の侍医を連れて来いと指示を出し、1人になったツユクサは笑みを隠さなかった。
「後宮が崩れるのも時間の問題か・・・。」
欲に塗れた女の顔ほど醜いものはない。
主人である姫巫女が目覚めぬにも関わらず、ツユクサは自分の内なる高揚感を止める事が出来ずにいた。
「オンブラよ、おるか?」
決して大きな声ではなかった。
それでもツユクサの声はハッキリと部屋中に聞こえていた。
「ここに・・・。」
それはツユクサが誰かを呼ぶ声だった。
ツユクサの真後ろに男が1人、姿を現した。
「もう、頃合いだろう。」
「後宮ですね?
こんな時に荒事に手を出して大丈夫ですかい?」
2人は互いの言っている言葉を理解していた。
「姫巫女様がお目覚めになられる前に、憂いを片付けるのだ。
綺麗さっぱりにな。」
「・・・綺麗さっぱりね。
了解した。」
オンブラと呼ばれた男は口元を緩めると瞬時に姿を消して行った。
沸々と湧き上がる気持ちの昂りを抑え込むように口元を抑えるツユクサは誰に見られるわけでもなく、横たわる姫巫女に祈りを捧げた。
「ここまで来た。
やっと、ここまで。
全てを手に入れる。
その瞬間まで、この娘には力を発揮してもらわなければならん。
この国の真髄まで、あの方に捧げる。
それこそが、我が使命なのだから・・・。」
どこからか、モヤモヤと現れた影が人型に形成されていく。
ツユクサの高揚感に反応するように増幅していく影は姫巫女を覆っては何事もなかったように消えていった。
「もう少し・・・あと少し・・・。」
ツユクサの怨念めいた祈りの言葉が部屋中に広がって行くのだった。
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