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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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 ーーー胸がざわめく。

 姫巫女にとって、生まれて初めて感じた心の揺らぎは、“不安”という言葉で片付ける事が出来なかった。

 今日は、その胸騒ぎが強かった。

「何か報告はあるか?」

 側に侍る侍女・ツユクサに声を掛けるとゆっくりと首を振った。

「宰相殿が後宮に使いを出した様子です。
 定期の連絡と公務に纏わる書類を持参した文官達は直ぐに立ち去ったそうです。
 その他は特別な事はございません。」

「・・・そうか。」

「何か?」

 問いかけるツユクサに答える事もなく、考え事をするでもなく姫巫女は空を見上げた。

 そしてそれは、突然やって来た。
 一筋の流れ星が見えたかと思えば、姫巫女の目から頭脳を強い刺激が支配した。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

 頭を抱えて蹲った姫巫女を侍女達が慌てて支えた。

「「「「姫巫女様!!」」」」

「早う!
 床の用意を!」

 ツユクサの指示に侍女達が足早に去って行く。

「姫巫女様!」

 姫巫女の瞳孔から開いた瞳は何者も写していなかった。
 ツユクサの叫ぶような声も聞こえている様子はない。

「姫巫女様!」

 騒ぎを聞いたオモトが駆け寄ってきた。

「突如として叫ばれたのだ!
 オモト、支えよっ!」

「はい!」

 離宮は慌ただしく人々の声が飛び交った。

 何が起こったのか分からないまま、眠りについた姫巫女を不安のまま侍女達は見守った。

「ツユクサ様・・・。」

 オモトの視線を受け、ツユクサは唇を噛んだ。

「今日の事は外部に漏らすな。
 姫巫女様に何かあったら、皆が不安がる。
 決して、知られてはならんぞ。」

「・・・畏まりました。」

 オモトは姫巫女の寝室を後にすると、侍女達を集め、見聞きした事を秘匿する事を伝えた。

「各自、仕事に戻れ。」

 オモトは侍女達に支持を出しながらも、自分にも襲いかかる恐怖を隠し姫巫女の元に戻って行った。

ーーーーーーーー

「あら~。
 何か、大変な事になってるなぁ。」

「シャロット、ダメだよ。
 目立っちゃうよ。」

「大丈夫だよ。ラック~。
 そろそろ宰相の所に戻ろっか。」

「うん。
 しっかりと見た事を伝えないとね。」

 シャロットとラックは侍女に紛れて移動すると、離宮の塀を乗り越えていく。

「あ~ぁ。
 イオリ様とあんまり話せなかったなぁ。」

「大丈夫だよ。
 イオリ、シャロットの事、覚えてたもん。」

「本当っ!?」

「だから、早く仕事を終わらそうね。」

 侍女の姿をした2人の獣人が闇夜に紛れる様に姿を消した。

ーーーーーーーー

 一筋の光は火山の頂上に落ちて行った。

『フンフン♪ フフン♪ フンフフン♪
 フンフン♪ フフン♪ フンフフン♪』

 真っ赤なドラゴンがゆっくりと溶岩に浸かっていく。

『クァァ。
 やっぱり、この溶岩は気持ちがいいねぇ。
 ヌフフフ。
 イタズラが過ぎたかな?
 ちょっと目が合っただけで発狂するなんて思わなかったな。』

 ドラゴンが体を震わせて笑うと、火山が共鳴して大きく揺れた。

『さてと・・・愛し子は、どうするかなぁ。』

 ザブンッと音を立ててドラゴンは溶岩に潜った。
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