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旅路〜グランヌス(渓谷・渓流)〜

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「臭い・・・。」

「・・・この匂い何?」

 とても不快そうな双子にイオリは苦笑する。

「硫黄だね。
 温泉地帯では、よく嗅ぐ匂いだよ。」

 上流に近づき、何処となく川から湯気が上がり始めた頃から、スコルとパティは無口になっていった。
 獣人であり、鼻が効く双子にとって腐った卵と言われる硫黄の匂いはキツイようだ。

「こうすると良い。」

 同じく獣人であるホワンが手本のようにスカーフを鼻から下に巻いた。

「うぅ。ちょっとはマシかも。」
「“グランヌス”って、ずっと臭いの?」

 がっかり気味の双子の様子にムネタカは困った様に笑った。

「まぁ、温泉が至る所で噴き出ているからな。
 しかし、源泉に近い山や川と比べると匂いは少ないぞ。」

「もう少ししたら、“グランヌス”に続く街道に繋がるエリアに近づくッス。
 慎重に進みましょう。」

 歩き続けて結構な時間が経つ。
 既に、周りに草木はない。
 大きな岩や小さな岩が乱雑に散らばった川岸で、うろうろしていれば確かに目立つ。

 うるさかったドワーフ達の顔にも緊張が見てとれた。

「そろそろリルラと合流しても良いのですが・・・。」

 様子を伺いながらゴヴァンが指輪に話しかけている。

「いよいよって気がしてきたな。」

 和やかだった旅に終わりが見えてきた。
 敵陣に入ったと思えば、身が引き締まるのも間違いない。

「待ち伏せされれば、安全に国に入るのは難しくなる。
 出来れば、人に見られる事なく進む事が出来ればいいのだが・・・。」

 自分が国を出た事で、敵の監視の目が厳しくなっていたのは覚悟していた。
 こんな時は悪い事ばかり思い返す。
 昨日まで仲良く話していた部下達の目が自分を蔑むように変化していたのを思い出し、ムネタカはゾッとした。

「ムネタカさん?」

 イオリに肩を叩かれ、ハッとしたムネタカは汗を掻いているにも関わらず寒気を感じていた事に気づいた。

「大丈夫です。」

 思わず口にしたが、誰の目にも大丈夫でない事は分かっていた。

「すみません。
 ここに来て、足が重い。」

 謝るムネタカにイオリは微笑んだ。

「その重い足も前へ出せば、国を取り戻す1歩になります。
 貴方は1人じゃないはずですよ。」

 イオリに勇気を貰うと青白かったムネタカの顔に血色が戻ってきた。

「リルラからの連絡です。
 やはり、ちらほらと人がいる様です。
 全てが敵とは限りませんが、警戒するに越した事はありません。」

 ゴヴァンの報告にドワーフ達がいそいそとロクの背に隠れていった。
 
「おい、こら。
 おっさん共よ。」

「ワシ等は戦いには向かんのだ。」
「すぐ泣くと言っただろう。」
「隠れるのは得意なんだがな。」
「でも、泣く。」

 頼りのないドワーフを呆れた顔で見下ろしたロクであったが、もとより期待はしていない。

「はいはい。
 大人しくしてるっスよ。」

 4人のドワーフは今度ばかりは素直にコクリと頷いた。

「どうする?」

 ヒューゴの問いに答えるようにイオリは青い目に力を込めた。

「うーん。
 敵ばっかり・・・でも、なさそうですね。」

 イオリはリュオンが授けてくれた力を信じて前を進むのだった。
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