続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜グランヌス(渓谷・渓流)〜

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パチン パチン

 将棋の駒を弾く音が静かな部屋を切り裂いていた。

パチン パチン

 誰が、この小さな部屋で1人で駒を奏でる小柄な老人が“火の国・グランヌス”を裏から支える隠密の頭目だと分かるだろう。
 背中を丸めジッと将棋盤を睨みつける老人は、ゆっくりと駒を動かしてた。

「旦那様。」

「なんだい?」

 襖の向こうから自分を呼ぶ声に応じた老人は、将棋盤から目を離す事なく耳を傾けた。

 姿を現したのは、朱色の羽織を着た男だった。

「店先にの使いが。」

「・・・ほう。」

「エルフの男です。
 如何しますか?」

?」

「大丈夫です。」

「・・・。」

 朱色の羽織の男は身動き1つせずに老人の指示を待った。

 その時だった。
 外の戸の隙間から小さな狐が入ってきた。
 小狐は老人の太腿に飛び乗り、何かを訴えるように見上げている。

 老人が頭を撫でてやると小狐は1枚の小さな紙に変化しヒラヒラと舞い降りた。

「鼻垂れが・・・遅いんじゃ。」

 メモを確認した老人は一息吐くと朱色の羽織の男に視線を向けた。

「会おう。
 連れておいで。」

「はい。」

 朱色の男は迷う事なく頷くと襖を閉めた。

「・・・さてさて、どんな拾い物が来たのものやら。」


 朱色の羽織の男・・・トージに連れられてやって来たのは、スラっとしたエルフの男だった。
 エルフの男はケネスと名乗った。

「お前さん。
 ウチのロクと、何処で会ったね?」

 挨拶もそこそこに老人が問いかけた。

「そのロクという男と直接会った事はない。
 私の主人たる御方がロクと、彼の主と共に行動されている。」

 そう聞けば、老人は大きな溜息を吐いた。

「お前さんが尋ねてくると連絡きたのも今さっきの事だ。
 あの阿呆は詳しい報告をして来てないんだ。
 誰が誰となんだって?」

 ケネスは小さな老人に気押される事なく表情を変えずに答えた。

「我が主人たる御方と貴殿らのは“パライソの森”で出逢われた。」

「至宝ね・・・違いない。
 孫は無事なんだね?」

 娘を王に嫁がせた老人にとってムネタカは初孫であった。
 国抜けの手伝いをした上でロクを付けた。
 心配していた孫の足取りが知り得るとあって、ケネスを見つめる老人の視線が強い。

「私が知っている事とすれば“デザリア”に向かう途中、“パライソの森”で魔獣による足止めにあっていたそうだ。
 加えて共に行動していた、他2名が情報を漏らしていたらしい。
 “エルフの里の戦士”と“グランヌス”からの追跡者に狙われていたところを、我が主人たる御方と“ルーシュピケ“のガーディアン達に助けられたそうだ。」

 報告を聞いた老人は瞳を閉じただけだったが、同席していたトージがビクリと動いた。

「ソウスケとキクが・・・そうかい。
 2人はどうなったね?」

 幼き頃より見ていた2人の若者の死を覚悟していた老人の耳に信じられない言葉が聞こえてきた。

「“魅了”の呪いは我が主人たる御方が解いたそうだ。
 しかし、“魅了”から回復した2人は主人を手にかけようとした事を悔い、別離を選んだと聞いている。」

「何と・・・“魅了”が解けたと言ったか。」

 驚く老人にケネスは初めて微笑んだ。

「ミズガルドで奴隷として生きていた私を解放してくれたのも、あの御方だ。
 貴殿らの至宝と共に“グランヌス”に向かっている。」

「そうか・・・。」

 吉か凶と疑っていた老人は混沌の中で明かりを見つけた孫を想った。


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