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旅路〜グランヌス(渓谷・渓流)〜

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 “グランヌス”の隠密・・・。
 
 リルラは同種として、その存在を

「・・・やはり。
 隠密がいたのですね。」

 伺うようなリルラにロクは肩をすくめながら笑った。

「まぁ、俺がそうッスから。」

「そんな気はしていたんです。
 私達も同じですから。」

「でしょうね。
 一目見て、俺も同じように思ってましたよ。」

 2人は互いにニヤリとした。

「ムネタカさん。
 リルラさんの仲間がお母様に捕えられていたら無事な理由は何ですか?」

 イオリが問いかければ、リルラとゴヴァンが縋るような顔でムネタカを見つめた。

「母達も姫巫女の動向を探っているからです。
 リルラさんの仲間が姫巫女を調べていたのだとすれば、母の目に留まらぬはずがない。
 敵の敵は仲間である・・・。
 情報の共有はしようと試みると思いますよ。
 手段は分かりませんが。」

 気まずそうなムネタカにリルラが微笑みを向けた。

「生きているなら良いのです。
 我々は辛い事には慣れています。
 生きているのなら、2人は大丈夫です。」

 辛い事に慣れていると言い切ったリルラをムネタカは切なそうに見つめた。

「なるほど・・・。」

 奴隷であった過去がある・・・。
 目の前の女性をウサギの少女に置き換えてムネタカは胸を締め付けられるようだった。

 イオリはリルラとゴヴァンに提案した。

「シャロットさんとエメリーさんの事はムネタカさんに任せませんか?」

「任せる・・・。」

 困った顔をしたリルラにムネタカがイオリと同じように優しい顔を向けた。

「“グランヌス”国内に情報を伝えてきた仲間がいるのですね?
 その仲間を“イケダ屋”という店に向かわせて下さい。
 母との繋ぎをつけます。
 少なくとも、宮殿の様子が分かるはずです。」

 イオリが頷くとリルラはすかさずに立ち上がった。

「ロク。」

「はいはい。
 俺は“イケダ屋”のジジィに連絡します。
 リルラさん。
 《デンデン太鼓は要らんかね。》
 店先にいる朱色の羽織の男に、そう声を掛けるように伝えて下さい。」

 リルラは頷くと洞穴の外に向かい腕輪に話かけ始めた。

 ロクは胸元から小さな紙を取り出すと息を吹き掛けた。
 小さな紙は狐の形に姿を変えると、スッと姿を消した。

「あれは、隠密一族の秘術です。
 連絡を取るのに便利ですが、現在の王宮に安易に送るわけにはいきません。
 それに比べ、市井に紛れる“イケダ屋”は隠密の一族が経営しています。
 ・・・母の父親で私の祖父が店主です。
 誰よりも早く、国の変化に気づき対処した為に“魅了”の闇堕ちの心配もありません。」

 王妃の父親が町人として生きている事に驚くイオリ達にムネタカは微笑んだ。

「祖父は隠密の一族の当主でありながら、町に溶け込む事で国を支えているのです。」

 十蔵の思想を色濃く残した“火の国・グランヌス”。
 歴史や虚構しか侍や忍者の事を知らないイオリにとって実物の生き方に触れて心の隅が擽ったい。

 国を背負う者。国を支える者。
 混りっ気のない、その心意気が眩しく見えた。
 
 

 
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