続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜グランヌス(渓谷・渓流)〜

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 木々に囲まれた平地を疾走する馬車が1台。
 何者にも阻まれる事無く風を切る。 

 “パライソの森”を抜けて渓谷を目指す一行は、ただひたすら1本道を進んでいた。

「バトルホース、恐るべしっスね。」

 感嘆の声を上げたのはヒューゴと共に御者席に座っていたロクだった。

「まるで、木が自ら避けてるみたいっス。」

「アウラはスピードの調整が上手いからな。
 俺のする事なんて、座ってる事だけだ。」

 誇らしげなヒューゴはアウラに向かってボーロを投げた。
 それを見事にキャッチするアウラは、「もっとくれ。」と嘶いた。

「ヒヒン。」

 曲芸のような様子を見てもロクは動揺などしない。
 それは、もっと気になる事があったからだった。

「デコボコな道でスピードを上げてるのに、なんでこんなに揺れないんです?」

 クッション性の高い座席を撫でるロクにヒューゴは微笑んだ。

「イオリのこだわりの馬車だからな。
 この馬車は壊れた中古をイオリが手を入れて作り直したんだ。
 まぁ、何をしたのかは正確には知らん。」

「強くて、料理が上手くて、こんなのも作るって・・・何すか。
 あの人、超人ですか?」

 もはや呆れた顔で褒めるロクをヒューゴは苦笑しながら肩をすくめた。

「俺も考えるのをやめたら、楽になったよ。」

 会話を楽しんでいた2人が目にしたのは前方からデスカローヴァの群れが獲物を見つけたと襲いかかってくる姿だった。

「おいおいおい。」

 臨戦態勢をとるロクとは別にヒューゴは気軽に後を振り返った。

「おい。イオリ。
 デスカローヴァの群れだ。
 食材にどうだ?」

「あっ。
 良いですね。」

 デスカローヴァと聞いてギョッとしているムネタカとホワンとは別に子供達やラックが大喜びし始めた。

「デスカローヴァだってさ。」

「牛の肉に似てて焼いても煮込んでも美味しいんだよね。」

「パティの出番だね。」

「頑張ってね。」

「うん。任せて。」

 まるで店で食材を購入するかのような楽観的な子供達にムネタカは何とも言えない顔をした。

「ちょっと失礼します。」

 瞬時に移動してきたイオリは御者席に足をかけてスナイパーライフルをかまえた。
 角を振り乱して先頭を走る1番大きなデスカローヴァが群れのリーダーだと狙いを定める。

スパンッ!!

 引き金を引いたイオリは、自分の仕事はまだかと準備している相棒に声をかけた。
 
「ゼン、いいよ。」

『はーい。』

 イオリの放った弾丸はデスカローヴァの眉間を撃ち抜いた。

ズサササー!

 態勢を崩し前のめりに倒れていくリーダーを目にし、周りのデスカローヴァが慌てて逃げ惑っていく。
 追い討ちをかけるようにゼンが威嚇し群れを散らすと、最後に仕留めたデスカローヴァの首根っこを咥えて戻ってきた。

「ありがとう。
 お疲れ様。」

 獲物とライフルを腰バックに入れて後方に戻って行くイオリをロクは驚愕して見つめた。
 
「何ッスか、今の!」

 喚くロクにヒューゴがニヤニヤと笑う。

「普通は馬車を止めて対抗するでしょう?」

 その普通とやらを学んでこなかった子供達は不思議そうに首を傾げた。

「そうなの?」
「さぁ?」

 双子の会話にムネタカが呆れた様に頷く。

「デスカローヴァは強靭な体と体力を持つから、出会ったが最後・・・普通は戦いを回避するか必死に逃げるんだよ。
 立ち止まる事なく獲物を仕留め、スピードを落とさず一連の事が行われていたなんて誰に話しても信じてもらえそうにありません。」

 ムネタカに恨めし顔で見つめられたイオリは困ったように笑った。

「だって、この方が楽でしょ?」

 あくまでも常識の通じない男だった。

 
 

 
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