続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ2〜

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「姫巫女様ー!」

「本日も美しい・・・。」

「私にも幸せを下さいませ。」

 連日、屋敷を訪れている貴族達を見渡し、1人の若い娘が汚れ1つない輝いた笑顔を浮かべていた。

「皆さんが私を必要としてくださる限り、私は皆さんを側から支えます。」

 カナリアのような可憐な声は、まるで歌っているようだ。

 質実剛健の余計な物はない造りが特徴であった“グランヌス”自慢の王宮も、姫巫女に与えられた屋敷は金銀や宝石を利用した華やかなものとなっていた。
 厳選された者達が貢物を手にやって来るのも、最近では当たり前の光景となっていた。

 今も、貴族が説法の時間に姫巫女の話を聞こうと集まっていた。
 
 豪華な椅子に座り、微笑む姫巫女の背後から近づいてきた来た侍女が耳打ちをした。

「・・・そう。」

 眉を下げて頷く姫巫女に集まった貴族達は感嘆の息を漏らす。

「今の表情も憂いがある。」

「なんて儚げで可憐なんでしょう。」

 スッと立ち上がった姫巫女は小首をかしげると、優しく微笑む。

「今日のお話はお終いにしましょう。
 また、お会いしましょうね。」

 侍女や護衛達に囲まれて、屋敷に姿を消して行った姫巫女を見つめていた貴族達は残念な気持ちを押し殺して見送った。

 そして訪問者は一様にフラフラとしながらも1人、また1人と帰って行くのだった。


カサカサ

 誰もいなくなった屋敷の草むらから人影が辺りを見回して去っていく。

 その人影は厳戒態勢の中にある宮殿内を迷う事なく足早に移動した。
 音も立てずに1つの扉を様子を伺いながら入ると、顔を覆っていた頭巾を取り除き、垂れ下がる耳をピコっと動かした。

「どうだった?」

 そこに中で待っていた人物が物陰から姿を現した。

「待って、何か飲むもの頂戴。
 緊張で喉がカラカラ。」

 屋敷を探っていたのは犬の獣人でシャロットと言い、部屋で待っていたのはエミリーという名のエルフだった。
 2人はかつてミズガルドの暗部として働いていたのを、リルラやラックと共にイオリに解放された者達だった。

「やっと姫巫女の屋敷の庭まで行けたわ。
 でも、あれ以上は近づけないよ。
 屋敷のそこらから焚かれているお香の匂いが、人の脳を麻痺させてるわ。」

 犬の獣人は鼻がいい。
 嫌そうな顔で鼻を擦るシャロットにエメリーは微弱の回復魔法を使ってやった。

「ありがと。
 マシになったわ。」

 満足そうに微笑むシャロットは見聞きした物をエメリーに聞かせた。

「洗脳とは言ったものよね。
 誰しもが思考を鈍らせていたわ。
 集まった人たちの瞳なんて、狂気よ狂気。」

 吐き捨てるシャロットの言葉をエメリーは、事細かにメモしていった。

「それじゃ、これをケネスに送るわね。」

 エメリーは自分でメモした紙を額に押し付けると魔力を込めていった。

「伝達魔法って、本当に便利よね。
 一定の距離離れても、互いの魔力を利用して連絡が取れるんだもの。」

 小さな体のシャロットは城や宮殿に忍び込むのを得意とし、エメリーは情報を仲間に送るのが得意だった。

「終わったわ。
 長居は無用よ。
 そろそろ旅団に戻りましょう。
 宮殿の側にケネスが馬車を回してくれるわ。」

「了解。」

 2人は誰にも見られる事なく、姿を消そうとしていた。

が動くみたいよ。
 リルラ達と来るわよ。」

「本当?!
 私の事、覚えてくれてるかなぁ?」

「フフフ。
 どうかしらね。」

 彼女達の言う旦那とは、言わずと知れた真っ黒な青年の事であるが、命の恩人である彼に2人が会うのは3年ぶりの事だった。
 嬉しそうに2人が扉を開けようとした時だった。

「動くな。」

 地に落ちるような低い声で囁かれたと思ったら、気づいた時には、冷たい刀が2人の首に当てられていた。
 
 
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