494 / 782
旅路〜ルーシュピケ2〜
502
しおりを挟む
__________
「姫巫女様ー!」
「本日も美しい・・・。」
「私にも幸せを下さいませ。」
連日、屋敷を訪れている貴族達を見渡し、1人の若い娘が汚れ1つない輝いた笑顔を浮かべていた。
「皆さんが私を必要としてくださる限り、私は皆さんを側から支えます。」
カナリアのような可憐な声は、まるで歌っているようだ。
質実剛健の余計な物はない造りが特徴であった“グランヌス”自慢の王宮も、姫巫女に与えられた屋敷は金銀や宝石を利用した華やかなものとなっていた。
厳選された者達が貢物を手にやって来るのも、最近では当たり前の光景となっていた。
今も、貴族が説法の時間に姫巫女の話を聞こうと集まっていた。
豪華な椅子に座り、微笑む姫巫女の背後から近づいてきた来た侍女が耳打ちをした。
「・・・そう。」
眉を下げて頷く姫巫女に集まった貴族達は感嘆の息を漏らす。
「今の表情も憂いがある。」
「なんて儚げで可憐なんでしょう。」
スッと立ち上がった姫巫女は小首をかしげると、優しく微笑む。
「今日のお話はお終いにしましょう。
また、お会いしましょうね。」
侍女や護衛達に囲まれて、屋敷に姿を消して行った姫巫女を見つめていた貴族達は残念な気持ちを押し殺して見送った。
そして訪問者は一様にフラフラとしながらも1人、また1人と帰って行くのだった。
カサカサ
誰もいなくなった屋敷の草むらから人影が辺りを見回して去っていく。
その人影は厳戒態勢の中にある宮殿内を迷う事なく足早に移動した。
音も立てずに1つの扉を様子を伺いながら入ると、顔を覆っていた頭巾を取り除き、垂れ下がる耳をピコっと動かした。
「どうだった?」
そこに中で待っていた人物が物陰から姿を現した。
「待って、何か飲むもの頂戴。
緊張で喉がカラカラ。」
屋敷を探っていたのは犬の獣人でシャロットと言い、部屋で待っていたのはエミリーという名のエルフだった。
2人はかつてミズガルドの暗部として働いていたのを、リルラやラックと共にイオリに解放された者達だった。
「やっと姫巫女の屋敷の庭まで行けたわ。
でも、あれ以上は近づけないよ。
屋敷のそこらから焚かれているお香の匂いが、人の脳を麻痺させてるわ。」
犬の獣人は鼻がいい。
嫌そうな顔で鼻を擦るシャロットにエメリーは微弱の回復魔法を使ってやった。
「ありがと。
マシになったわ。」
満足そうに微笑むシャロットは見聞きした物をエメリーに聞かせた。
「洗脳とは言ったものよね。
誰しもが思考を鈍らせていたわ。
集まった人たちの瞳なんて、狂気よ狂気。」
吐き捨てるシャロットの言葉をエメリーは、事細かにメモしていった。
「それじゃ、これをケネスに送るわね。」
エメリーは自分でメモした紙を額に押し付けると魔力を込めていった。
「伝達魔法って、本当に便利よね。
一定の距離離れても、互いの魔力を利用して連絡が取れるんだもの。」
小さな体のシャロットは城や宮殿に忍び込むのを得意とし、エメリーは情報を仲間に送るのが得意だった。
「終わったわ。
長居は無用よ。
そろそろ旅団に戻りましょう。
宮殿の側にケネスが馬車を回してくれるわ。」
「了解。」
2人は誰にも見られる事なく、姿を消そうとしていた。
「旦那さんが動くみたいよ。
リルラ達と来るわよ。」
「本当?!
私の事、覚えてくれてるかなぁ?」
「フフフ。
どうかしらね。」
彼女達の言う旦那とは、言わずと知れた真っ黒な青年の事であるが、命の恩人である彼に2人が会うのは3年ぶりの事だった。
嬉しそうに2人が扉を開けようとした時だった。
「動くな。」
地に落ちるような低い声で囁かれたと思ったら、気づいた時には、冷たい刀が2人の首に当てられていた。
「姫巫女様ー!」
「本日も美しい・・・。」
「私にも幸せを下さいませ。」
連日、屋敷を訪れている貴族達を見渡し、1人の若い娘が汚れ1つない輝いた笑顔を浮かべていた。
「皆さんが私を必要としてくださる限り、私は皆さんを側から支えます。」
カナリアのような可憐な声は、まるで歌っているようだ。
質実剛健の余計な物はない造りが特徴であった“グランヌス”自慢の王宮も、姫巫女に与えられた屋敷は金銀や宝石を利用した華やかなものとなっていた。
厳選された者達が貢物を手にやって来るのも、最近では当たり前の光景となっていた。
今も、貴族が説法の時間に姫巫女の話を聞こうと集まっていた。
豪華な椅子に座り、微笑む姫巫女の背後から近づいてきた来た侍女が耳打ちをした。
「・・・そう。」
眉を下げて頷く姫巫女に集まった貴族達は感嘆の息を漏らす。
「今の表情も憂いがある。」
「なんて儚げで可憐なんでしょう。」
スッと立ち上がった姫巫女は小首をかしげると、優しく微笑む。
「今日のお話はお終いにしましょう。
また、お会いしましょうね。」
侍女や護衛達に囲まれて、屋敷に姿を消して行った姫巫女を見つめていた貴族達は残念な気持ちを押し殺して見送った。
そして訪問者は一様にフラフラとしながらも1人、また1人と帰って行くのだった。
カサカサ
誰もいなくなった屋敷の草むらから人影が辺りを見回して去っていく。
その人影は厳戒態勢の中にある宮殿内を迷う事なく足早に移動した。
音も立てずに1つの扉を様子を伺いながら入ると、顔を覆っていた頭巾を取り除き、垂れ下がる耳をピコっと動かした。
「どうだった?」
そこに中で待っていた人物が物陰から姿を現した。
「待って、何か飲むもの頂戴。
緊張で喉がカラカラ。」
屋敷を探っていたのは犬の獣人でシャロットと言い、部屋で待っていたのはエミリーという名のエルフだった。
2人はかつてミズガルドの暗部として働いていたのを、リルラやラックと共にイオリに解放された者達だった。
「やっと姫巫女の屋敷の庭まで行けたわ。
でも、あれ以上は近づけないよ。
屋敷のそこらから焚かれているお香の匂いが、人の脳を麻痺させてるわ。」
犬の獣人は鼻がいい。
嫌そうな顔で鼻を擦るシャロットにエメリーは微弱の回復魔法を使ってやった。
「ありがと。
マシになったわ。」
満足そうに微笑むシャロットは見聞きした物をエメリーに聞かせた。
「洗脳とは言ったものよね。
誰しもが思考を鈍らせていたわ。
集まった人たちの瞳なんて、狂気よ狂気。」
吐き捨てるシャロットの言葉をエメリーは、事細かにメモしていった。
「それじゃ、これをケネスに送るわね。」
エメリーは自分でメモした紙を額に押し付けると魔力を込めていった。
「伝達魔法って、本当に便利よね。
一定の距離離れても、互いの魔力を利用して連絡が取れるんだもの。」
小さな体のシャロットは城や宮殿に忍び込むのを得意とし、エメリーは情報を仲間に送るのが得意だった。
「終わったわ。
長居は無用よ。
そろそろ旅団に戻りましょう。
宮殿の側にケネスが馬車を回してくれるわ。」
「了解。」
2人は誰にも見られる事なく、姿を消そうとしていた。
「旦那さんが動くみたいよ。
リルラ達と来るわよ。」
「本当?!
私の事、覚えてくれてるかなぁ?」
「フフフ。
どうかしらね。」
彼女達の言う旦那とは、言わずと知れた真っ黒な青年の事であるが、命の恩人である彼に2人が会うのは3年ぶりの事だった。
嬉しそうに2人が扉を開けようとした時だった。
「動くな。」
地に落ちるような低い声で囁かれたと思ったら、気づいた時には、冷たい刀が2人の首に当てられていた。
776
お気に入りに追加
10,436
あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※
両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。
多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。
大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。
そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……?
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉
陣ノ内猫子
ファンタジー
神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。
お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。
チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO!
ーーーーーーーーー
これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。
ご都合主義、あるかもしれません。
一話一話が短いです。
週一回を目標に投稿したと思います。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。
誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。
感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる