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旅路〜ルーシュピケ2〜

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「だーかーら、これは肉じゃねーの!」

 ルーシュピケの一角で抗議の声を上げている狼獣人であるアズロにエルフのアズゥがゲラゲラと笑った。

 2人の目の前には真っ白なフワフワした塊が置かれていた。

「えー、美味いよ。
 俺は好きなわけよ。」

 アズゥが塊をクンクンと嗅ぐ。

 先日の宴会でイオリが出したはベジタリアンも多いエルフ達には大人気だったが、血の飢えた獣人達には不評だった。

「肉だって思って食った時は騙されたって殺意が湧いたぜ。」

 アズロが顔を顰めたのは油で揚げた豆腐・・・いわゆる揚げ豆腐の事だ。
 
 歯が弱くなり粥ばかり食べているハニエル老の為にイオリが作った餡かけ揚げ豆腐はエルフの中で瞬く間に人気になった。
 我も我もと集まるエルフに獣人達も羨ましげに手を伸ばすが、こっちには大不評だった。

 狼獣人とエルフの2人は名前が似ていても食の好みは全くと言って違っていた。

「大豆とニガリっていう液体で作れるらしいよ。
 大豆は山ほど採れるけど、ニガリはないからホワイトキャビンが仕入れてくれる事になったんだって。
 これで、いつでも豆腐が食べられるよ。」

 軽やかにステップを踏み、嬉しそうなアズゥに対してアズロは嫌そうに舌打ちをする。

「フニャフニャで味がしねー変な食いもん!
 俺はいらねーからな!
 肉出せ!肉を!」

「まったく、誰もに食えなんて言ってないだろう?
 世界には珍しい食いもんがあるな。
 イオリがルーシュピケに来てから騒がしい毎日だ。
 これはこれで楽しいな。」

 いつも穏やかなルーシュピケに刺激をもたらしたイオリは住人達に人族のハードルを下げる役割もしていた。

 ーーー人族も思ったより悪くない。
 
 この数日でルーシュピケの住人達は考えを少し変化させたようだ。
 今では、どこに行ってもニナもヒューゴも歓迎されていた。

 イオリが教えた鍵編みもルーシュピケの産業に激震をもたらしていた。
 
 カロスとダイダの長老達を始めとした引退していた機織職人達がアレやコレやと試行錯誤を繰り返しては、かつての活気を取り戻しているそうだ。

 ガーディアン達にも変化は見られるようになった。
 “グランヌス”が攻めてくると聞いたからには砦の守護は彼らの仕事だった。
 特に、イドリアルが所属する“ペンプティ”が“パライソの森”の主人であるアマメに遭遇した事も大きかった。
 
 伝説であったアマメが目の前に現れた事で彼らの防衛本能に気合いが入ったのだ。

「まったくよう。
 ギャースカ騒ぎやがって。」

「フフフ。 
 良いではないか。
 かつての英雄が我等に影響を与えた様に、イオリが現れた事で若い者達にも刺激になっているのだろうさ。」

「違いねぇ。」

 象獣人のフェンバインとエルフのハニエル。
 2人の代表者は自分達が愛する砦、そして同胞達を慈愛の満ちた目で見つめたのだった。


 “グランヌス”から宣戦布告されたのはそれから3日後の事だった。
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