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旅路〜パライソの森⒉〜

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 友人を刃にかける覚悟を粉砕されたムネタカは呆然とした。

「何、殺そうとしてるんですか。
 折角の証人ですよ?」

 それはいつになく、ご立腹なイオリの仕業であった。

「・・・お前、空気読めよ。」

 流石のヒューゴも顔を引き攣らさせている。

「だって、止めないと死んじゃいますよ。」

「だからって、やり方があるだろうが!」

 ギャーギャーと言い争うイオリとヒューゴの側でドサっと膝をついたムネタカが悔しそうに土を握り締めていた。

「・・・友に死すら与えてやる事が出来ぬのか。」

「だから殺さないで下さい。」

「奴らのに身を落とした2人を、牢獄に入れ飼い殺すとでも言うのか・・・。
 彼らには名誉の死すら選べないのか!」

「彼らの魅了なら解けますよ。」

 ムネタカとロクは驚いた様にイオリを見つめた。

「・・・魅了が解けるだと?」

「そうですよ。
 だから、これ以上、敵に利用される事はありません。
 死ぬ理由がない。」

 横に首を振るイオリに希望を見たムネタカであったが、一瞬で顔を曇らせた。

「しかし、魅了が解かれたとしてもソウスケは責任を感じ苦悩するだろう。
 それこそ、自刃に果てる事を選ぶ。
 だったら、今こそ私が手にかけてやるべきだ。」

 そこでイオリの堪忍袋が切れた。

「命を軽んじるな!」

 普段が優しいが故にイオリの怒りにヒューゴですら驚いていた。
 その剣幕はルーシュピケのガーディアン達ですらビクついている。
 ましてや、その怒りを身に受けたムネタカこそ怯えからか当惑からか固まっていた。

「生きる者として人生を全うするべきだ。
 助かる道があるのなら、どんな荒れた道でも選ぶべきだ。
 死は名誉などではない!
 死は死だ!
 主人であるのなら家臣の命に責任を持て!」

 すぐに死を口にする世界にイオリは怒っていた。

「ルーシュピケの民が貴方達を助けた。
 拾った命です。
 大切にして下さい。」 

 ムネタカは涙を堪えながらイオリを見上げた。

「我ら“火の国”は遥か昔から、生き恥を晒すなら死を選べと教えられてきた・・・。」

「それなら国を逃げ出した、貴方は何故まだ生きている?
 生き恥と分かりながらも、国を救おうと抗っているのではないですか?」

 イオリとムネタカの問答を皆が静かに見守っていた。

「我らは成人すれば一番最初に自刃の作法を教えられるのだ・・・。
 それが大人の世界に入る儀式だ。
 ・・・そうでなければ自ら死を選んだ先人達に申し訳がない。」 

「人の死に意味を齎らすのは、生きた者の努め。
 必死に生きた者を辱めるのは、生きた者の怠惰だ。
 恥の人生でも生きる中に道を見つければ歩いていける。
 ・・・生きて下さい。」

 イオリが手を高く掲げると真っ赤な鳥が飛んできた。
 真っ赤な鳥が降らせる光る玉がソウスケとキクだけじゃなくムネタカとロクを優しく包み込んでいった。


 




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