続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜パライソの森⒉〜

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『お久しぶりです。相沢さん。』

「ご無沙汰してます。リュオン様。
 会えて嬉しいです。」

 大陸を渡ってから、教会から遠ざかっていたイオリにとって、本当に久しぶりのリュオンの姿だった。

「まさか、パライソの森の大樹でリュオン様に会えるとは思いませんでした。」

 イオリが微笑むとリュオンはクスクスと笑った。

『私は自然の中のありとあらゆる物に宿ります。
 今までだって同じです。
 教会にある像だって、元は石でしょう?
 そしてパライソの大樹は自然そのもの。
 加えて言うのなら、人々の祈りが強ければ強い程に力は宿ります。』

 ーーーなるほど。

 教会の石像もパライソの大樹も、その土地に住む人々の祈りの対象だった。
 
 ルーシュピケの民にとってパライソの森の大樹は、教会なのだ。

 イオリが納得したと判断したのだろう。
 リュオンは甘えてくるゼンと小鹿に目を細めた。

『此処までの旅の様子を見守っていました。
 デザリアでの働きは見事でした。』

 デザリアと聞き、イオリは彼の国の幼い姫を思い出した。

「リュオン様。
 バシラ・フレール様は愛し子なのですか?」

 イオリの直球な質問にリュオンは悲し気に眉を下げた。

『あの子には残酷な運命を与えてしまった。
 バシラ・フレールの魂は清らかなままです。
 初めて会った時も己の心の美しさを隠さなかった。
 私は彼女の魂に惹かれたのです。』

 バシラ・フレールの魂はイオリと一緒だった。
 前世の思いを強くして転移してきた十蔵とは違い、清らかな魂を愛おしく思ったリュオンの手によって送り届けられた存在なのだ。

『彼女の魂は前世に記憶を置いていく選択をしました。
 彼女の出現により、砂漠の地は安定を手にしたのです。』

 初代デザリア王であるアーマッドが国を作り、孫であるフレールの名を持った姫が国の防衛の基盤を作り上げた。
 バシラ・フレールは彼女の生まれ変わりだ。

 愛し子である彼女に再び宿命が背負わされる事を彼女の祖父であるハーディ・ガレー前公爵は苦心していた。
 そして、その老公爵にイオリは約束したのだ。
 自分がバシラ・フレールよりも先に世界の闇を祓うと・・・。

「・・・リュオン様。
 俺は勝手をしてますか?」

 珍しく不安そうなイオリを見てリュオンは微笑んだ。

『私は貴方に自由に生きてほしいと言いました。』

「でも、本当はバシラ・フレール様に与えた運命ですよね?
 俺がしようとしている事は、余計な事ですか?」

『相沢さんは、あの子に子供として生きる自由を与えてくれた。
 私は貴方の選択に感謝しています。』

 リュオンの言葉に俯き加減だったイオリが顔を上げた。
 
 リュオンは優しく微笑んでいた。
 リュオンは愛おしそうにイオリを見つめていた。
 リュオンはイオリの覚悟を認めてくれた。

『貴方に背負わせる宿命ではなかった。
 でも、あの子に背負わせれば良い役目でもなかった。』

「でも、誰かがやらなければいけなかった。」

 イオリとリュオンの問答は穏やかだった。

「まぁ、俺は旅の途中に気に入らない事があるから対処するだけですけどね。」

 ニヤリとするイオリにリュオンはクスクスと笑った。

『すでに、問題は動き出しています。
 アマメが貴方を待っている事でしょう。
 これから、どうするかは貴方に任せます。』

 イオリは頷くとゼンと小鹿を手招きした。

「それじゃ、行きます。」

『えぇ、いってらっしゃい。』

 薄れゆくリュオンに別れを告げるとリュオンが微笑んだ。

 ーーーありがとう

 最後の言葉はイオリの心を奮い立たせるのに十分だった。
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