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旅路〜パライソの森⒉〜

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「客人!
 もう少しで大樹だ。
 何が待っているのか分からないが、大樹は我らルーシュピケの民にとって神木だ。
 祈りを捧げる大樹から発せられているエネルギーが、このパライソの森の生命の源と言われている。」

 走りながらも、心配そうな顔のイドリアルの気持ちに気づいたイオリは、ただ頷いた。

「3年前と同じように大樹に問題が起こっていたら・・・。
 再び森が闇に染まると考えるだけで恐ろしい。」

 イドリアルの不安はもっともだった。
 他のガーディアン達も口にはしないが、同様に不安を抱えているのだろう。
 
 姿を見せない魔獣や動物達の気配を探りながら走り続ける彼らの前に大きな大きな木が現れた。

「あれだ。」

 鬱蒼と茂っていた森の木々とは一線を画した大きな大木が神々しく光を浴びて佇んでいた。

「よかった・・・大樹は無事か。」

 一目見て、いつもと変わりのない大樹に安堵するイドリアルとガーディアン達。

 ーーーそれならば、何があるのだろう。

 皆が一斉に立ち止まり、大樹を見上げた。

 遠くからでも美しくも猛々しくも見える大きな木。
 苔に覆われ、どっしりとした幹に新緑の緑が風に靡いて輝いている。

 惹かれる様に近づいていくイオリを家族やガーディアンは、ただ見つめていた。

 その時だった。

「キュー。
 キュキュ。」

 可愛らしい鳴き声と共に、幹の後から小鹿が姿を現した。

 此処に来るまでに、魔獣どころか動物も見かけなかった一同は、驚き身を固めた。

「君は・・・あの時の子だね。」

 イオリが膝まづくと小鹿が、トコトコと近寄りイオリを見上げて鳴いた。

「キュー。」

 優しく撫でてやると、嬉しそうにイオリの手に顔を擦り付けてきた。
 暫く、そうしてやっているとゼンが小鹿に挨拶をする為に顔を近づけた。
 真っ白な狼にペロペロと舐められている小鹿の絵は危険に見えるものだが、誰1人として声を上げない。

 すると、小鹿が大樹に近づき、スンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
 カリカリと前足で大樹の幹を掻いては、イオリを見つめてくる。

「何があるんだい?」

 イオリは小鹿に優しく声をかけると、真似するように大樹の匂いを嗅ぎ幹に手を当てた。

ドクドクドク

 幹に触れた手に大樹の生命の証が伝わってきた。

「この大樹は生きている。」

 イオリは目を瞑ると大樹に額を付けた。

 次の瞬間の事だった。
 瞑ったはずの瞳に真っ白な光が襲いかかった。

「ウッ!」

 眩しくて顔を顰めるイオリの耳にクスクスと笑い声が聞こえた。

『もう、目を開けて良いですよ。』

 ゆっくりと目を開けたイオリの目の前に虹色の髪を靡かせたリュオンが、いつものように微笑んでいた。
 見渡せば、真っ青の空に草原がどこまでも広がり、沢山の扉がある・・・いつもの場所だ。

 キョトンとしているイオリにリュオンは、やっぱりクスクスと笑っている。

『お久しぶりです。相沢さん。』

 悪戯が成功した子供のような顔で笑うリュオンにイオリはホッとするのだった。

「ご無沙汰してます。リュオン様。
 会えて嬉しいです。」

 久々の再会だった。

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