続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ〜

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「商人ギルドと言ってもルーシュピケにいる職員は私1人だけなんですよ。」

 ピット・グラバーは愉快そうに笑った。

 ルーシュピケでは物々交換が当たり前であって、先程の果物や肉の塊も忙しい住人の代わりに他の住人が狩猟をしてきた・・・と言う事にすぎない。

 貨幣を必要とするのは、それこそとの間であった。
 
 ピット・グラバーが所属している商人ギルドは国を股にかける組織だ。
 どんな国でも平等を盾に君臨する冒険者ギルドと違って、商人ギルドは、その国その国に寄り添う側面がある。

 商人が活気があれば、国が潤う、自然と商人ギルドもより国と密接になっていく。

 そう言う意味でピット・グラバーはルーシュピケに儲けをもたらす必要があるし、商売に疎いルーシュピケと他国との問題を解決する役割がある。

 それをたった1人で請け負っているわけだから大変なわけだが、グラバーを見れば苦労を苦労としていない様に見えた。

 要は、この男はルーシュピケを気に入っているのだ。


「ルーシュピケは自然が豊でしょう。
 良質な素材が豊富だから質の良い布が作れるのですよ。」

 山積みにされた反物を撫でるとグラバーは微笑んだ。

「布ってどうやって作るの?」

 ナギの素朴な疑問にグラバーは1つの反物を広げた。

「ご覧ください。
 一糸一糸を織り上げていくのです。
 とても根気のいる作業ですよ。」

 それを聞いてイオリがピンときた。

「織物作業をされているんですか?」

「おや、機織りの技術をご存知ですか?
 多くの場合、魔獣の毛を剥ぐ作業をしていると思い込んでいるようですが、ルーシュピケでは植物や魔獣から糸を作り出し機織り達が反物を作っていくんですよ。」

カタンカタン カタンカタン

 イオリは遠く昔に聞いていた心地よい音を思い出し、懐かしそうに微笑んだ。

 縁側で足をブラブラしているイオリの後で祖母が奏でていた機織りの音。

 何本もの糸を魔法の様に操り布を作っていた。

ーーー自分が使う分くらいはね。

 布など買えばすむ時代の中、特別な布を作り上げていた祖母。

 まさか、ルーシュピケで織物と聞き、ノスタルジーを味わうとは思っていなかった。

「これ、全部やるの?!」

 驚くナギの声に現実に戻ってきたイオリは一緒になって反物を見つめた。

「えぇ、遥か昔の旅人の手によって伝えられた技術です。
 風変わりの人物だったようで、住人達の間では伝説ですよ。
 長命のエルフを中心に今も当時の織り方で作られているんですよ。」

 遥か昔の風変わりの旅人?
 
 イオリは首を捻った。

「何でも大層な剣の使い手だったとかで、魔獣達を捕まえては空腹だった住人達に振る舞ったそうですよ。
 初めのうちは魔獣の皮を削いで武具などに利用できる素材を売って貨幣を手に入れようとしていたらしいです。
 でも、手に職を持つ事の大切さに考え至ったそうで、試行錯誤の末に織物・・・布を作り出す技術を伝授されたそうです。」

「・・・なるほど。」

 そうだった。
 が海を渡って1つの国だけで満足するわけがなかった。
 デザリアに剣術を教えた後に旅を続けたに違いない。

「・・・十蔵さん。」

 再び、十蔵の痕跡に触れたイオリは優しく反物を撫でた。

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