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旅路〜ルーシュピケ〜

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 それを見たコーラルは悲鳴を押し殺した。
 お兄さんに引っ張られて裏庭に出たコーラルは恐怖で唖然としていた。

 その隣で、お兄さんが何度も何度も地面を叩き、泣きながら呻いていた。

「私達は見てはいけない物を見てしまった。
 見た物を誰にも言ってはいけないし、主の女官にだって見た事を悟られてはいけないよ。」

 お兄さんはコーラルの肩を掴んで必死の形相で言った。

「約束してくれ。
 誰にも言わないと。」

 コーラルには何が起こっているか分からない。
 ただ、いつもと違うお兄さんの様子に気圧されて頷く事しか出来なかった。

「コーラル?
 どこにいるの?」

 オモト様が呼ぶ声が聞こえた。

 慌てて振り返るとオモト様が訝しげに立っていた。

「コーラル。
 何をしている?
 誰かいたの?」

 慌ててコーラルが振り返ると、先程までいたお兄さんの姿がなくなっていた。

 コーラルは咄嗟に答えた。

「誰かいるかと思って様子を見に来ましたが、誰もおりませんでした。」

「・・・そうか。
 一度、部屋に戻る。
 これから姫巫女と共に城に上がるから、準備の手伝いをしなさい。」

「畏まりました。」

 コーラルは黙って仕事に戻った。
 
 その後、お兄さんと会う事はなかった。
 
 何故なら、それから暫くしてリルラの同胞達の手によってコーラルは救出されたのであった。

___________
 
 コーラルは溜息を吐くと弱々しく呟いた。

「約束、破っちゃった・・・。」

「誰にも話さないって、お兄さんに約束した事?」

「・・・うん。」

 イオリはコーラルの頭を優しく撫でた。

「秘密ってさ。
 大きければ大きいほど、重くて1人で持つ事が出来なくなるんだよ。
 それだけに囚われて、自分でもコントロールが効かなくなる。」

「どんどん、息するのも辛くなって、頭がボワボワするの。」

「秘密をペラペラ喋る人は信頼されないけれど、お兄さんとの約束を守って、誰にも打ち明けなかったコーラルは強い子だ。
 ここは“グランヌス”ではないし、コーラルの味方しかいない。
 お兄さんだって、コーラルが壊れてしまう事を望んでいないと思うよ。
 優しいお兄さんなんだろう?」

 コーラルはハッとして頷いた。

「とても優しかった。
 1人で泣いてると、いつも声をかけてくれて慰めてくれたの。」

「そんな人なら、コーラルが苦しんでいるのを望まないさ。
 ここにいる人達も言いふらしたりしない。
 重い荷物でも分けて持つ事が出来ればコーラルも重くないよ。」

 コーラルは初めて顔を上げて、自分を見守る大人達を見渡した。

 誰も彼もが微笑んでいた。

 秘密を抱えていたコーラルは、ルーシュピケに来てから優しくしてくれる住人達を前に苦しんでいた。
 優しくされればされるほど、秘密という頭の奥底に仕舞い込んだ毒が彼女の心を蝕んでいったのだ。

 重く暗い闇の中にいたコーラルは殻を破り光に手を伸ばす事が出来たのだ。

 可愛らしい笑顔で微笑み、目端から漏れる涙を拭った。

「ありがとう。」
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