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旅路〜ルーシュピケ〜

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 一時騒然としてなった獣人の集落もフェンバインの登場で落ち着きを取り戻していた。

 スコル達を睨みつけていた獣人達も武器を下ろしてホッとしているようだ。

「スコル。」

 後ろからヒューゴやって来ると、パティとナギは安心したように胸を撫で下ろし、泣きそうだったニナは思わず兄に駆け寄った。

 再び、見知らぬ人族の登場に住人達も注目しているがフェンバインの表情を見て危険は少ないと判断したのか先程までの騒ぎはない。

「お騒がせしたようです。
 ルーシュピケでは人族が警戒されるのは理解していました。
 子供達を置いて行ったイオリが悪いんです。
 申し訳ない。」

 苦笑しながら頭を下げるヒューゴに習って子供達も頭を下げた。

 住人達は丁寧な挨拶をしたヒューゴに安堵したのか、笑顔を浮かべる者も現れた。

 そんな中、スコルと狼の獣人の男アズロとの睨み合いは続いていた。

「こっちは謝ったんだ。
 そっちも謝ってよ。」

 憮然とするスコルに周りの大人達は驚いている。

「何?
 お前こそ、子供のクセに生意気だ。
 俺達の事を臆病者 と呼んだな。」

 全く引く様子のないスコルにアズロはイライラしていた。

「人族だけど、子供を相手に大人が武器を持ち出して威嚇するなんて臆病者って呼んで何が悪い。
 妹を怯えさせたんだ。
 謝れ!」

 普段、冷静なスコルには珍しく怒っている。

「人族と仲良くしているお前に何が分かる!
 ここにいる者達は人族に危険にさらされた事がある者が多い。
 警戒して何が悪い!」

 アズロは周りが止めるのも聞かずにスコルに吠えた。

「分かるもんか!臆病者!
 オレ達、双子も人族に親を殺された!
 でも、そんなオレ達を助けてくれたのはイオリだ!
 愛情をくれたのもイオリだ。
 ヒューゴだってニナだって、色々抱えてる。
 人には、それぞれの事情があるんだ!」

 スコルの怒りは止まらない。
 アズロが再び口火を切る前に畳み掛けた。

「オレは狼の獣人だ!
 もちろん、嫌な目に晒される事もあるし、直接される事もある。
 それでも人族に優しくもしてもらった。
 人には悪い人もいるけど、良い人もいる。
 ルーシュピケって獣人やエルフが幸せに暮らしている国の話を聞いて、オレは嬉しかったよ。
 でも、オレの目にはアンタは他国で見る、嫌な人族と同じだ。
 差別する奴の目だ。
 オレは獣人もエルフも人族も区別しない。
 良い人は良い人。
 悪い人は悪い人だ。」

 ヒューゴはスコルの怒りの正体に気づいた。

 スコルはガッカリしたのだ。

 自分と同じ獣人が楽しく暮らしている国だと憧れていた国が、実はしていると感じて幻滅したのだ。

 まさか、そんな事を言われると思っていなかったのだろう。
 アズロは唖然としていた。

 アズロだけではない。
 周りの住人達も心辺りがあったのだろう。
 自分達が、大嫌いなはずの人族と同じ感覚でいた事に居心地の悪さを感じているようだ。

「スコルって言ったか?
 小僧。
 痛い所をついてくるな。
 おうよ。
 それが・・・お前の言った、その歪んじまった感情が、オイラ達ルーシュピケの難点さ。」

 ーーー参ったな。

「お前さんは良い目をしている。」

「イオリのおかげさ。」

 フェンバインは悲しそうな顔をしながら優しい顔でスコルの頭を撫でた。
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