続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ〜

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「あい。あいあい。」

 自己紹介を終え、案内された部屋はテーブルと椅子だけの診察室だった。
 リスの獣人であるキキ医師は湯気がたったカップをイオリの前に差し出した。

「素敵なカップですね。」

「そう?
 メガスクルミの殻を乾して使うの。
 ルーシュピケでは当たり前よ。
 ゴールデンアップルとクコの実のお湯割は体が温まるから、どーぞ。」

 大きなクルミの殻の中にはリンゴの切れ端と真っ赤なクコの実を浮かべられていた。
 イオリは礼を言うと口をつけた。

 ラックとキキ医師の話によると、獣人はエルフと比べて体を張る事を好む傾向にあって、体の傷は勲章とさえ捉えている者達が多い。
 その為に、エルフの治癒魔法は傷跡すら治す可能性があるから敬遠する者もいるのだそうだ。

「バカばっか。」

 呆れた顔のキキ医師の隣でラックは苦笑している。

「だから荒療治で傷を治す輩が、無駄死の危険を冒す事もしばしばよ。
 私は子供の頃から、そんな筋肉バカを見てきたの。
 これはちゃんと治療出来る獣人が必要だと思って、勉強したのよ。
 アースガイルの学舎にもいた時期があるのよ。」

 この地で医師を続ける理由を話してくれたキキ医師の甲高い声にイオリは微笑んだ。

「そうでしたか。
 獣人の方は豪快ですね。」

「全ての獣人が、そうじゃないのよ?
 “ルーシュピケ”の獣人だけが筋肉ダルマなの。
 ラックのように、はちゃんと常識を持ってるわ。」

 優しい顔でキキ医師がラックを見つめた。

「あの子を真っ黒さんに会わせるのね?」

「・・・うん。
 だめ?」

 心配そうなラックにキキ医師は難しい顔で考え込んだ。

「どうしたもんかしらね。
 何が彼女の為になるのかしら。」

 そんなキキ医師にイオリは尋ねた。

「やはり、俺が人族だから怯えるでしょうか?」

 キキ医師は正解を探すようにジッとイオリを見つめていた。
 一呼吸するとキキ医師はカップに口をつけた。

「まぁ、怯えるでしょうね。
 でも、いつかは前を向いて生きていかなければならないもの。
 ・・・うん。
 決めたわ。」

 その後も3人の話は続いた。

_________

「もう!パティが食い意地張るから、イオリとラックに置いてかれちゃっただろう!」

「だって、美味しそうだったんだもん。」

 イオリ達の後を追っていたはずのスコル、パティ、ナギ、ニナ、そして子守役のアウラはパティがイチジクを見つけてしまった事でタイムロスをしていた。

「ここ真っ直ぐでいいのかなぁ?」

 ナギがキョロキョロすると、アウラがフンフンと頷いている。

「アウラが真っ直ぐって言ってるよ。」

 スコルとパティの言い合いを背に聞きながら、ナギとニナはアウラと寄り添うように歩いた。

「お家が見えてきたよ。」

 嬉しそうなニナの声に双子も駆け寄ってきた。

 大木と同化していた家々を見て、4人は目を輝かせた。

 その時だった。

「キャッ!人族ッ!!」

 悲鳴に近い声が辺り一体に響いたのだった。
 
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