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旅路〜ルーシュピケ〜

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「そうであったか。
 大変な目に遭ったのは我らだけではなかった。」

 何度も頷くハニエルにイオリは申し訳なさそうに言った。

「しかし、どう足掻いても人が迷惑をかけた事も事実です。
 “ルーシュピケ”の皆さんが俺達を不快に思うのも理解できます。」

 考え込んだハニエルはフェンバインを見上げた。
 フェンバインもワケ知り顔で頷いている。

「・・・もう少し、我らの話をしよう。
 我らは知っているのだ。
 其方が人族からエルフと獣人を解放し、傷を癒してくれた事を。」

 ハニエルの言葉にリルラやゴヴァン、コナーが側に来て大きく頷いた。

「その後の彼らに救われた者達が、どれほどいる事か。
 我らは恩すらあって、其方を不快に思う事などありはしないよ。」

 ここにきて、目の前の青年が噂のイオリと一致した住人達は喜んだ。

「フェンバインと共に守護者様に会いに行った時に言われたのだ。
 《いつの日か、自分の恩人がやって来る》
 神に愛されし子・・・守護者様はそう言いなされた。」

 ハニエルの囁きにイオリは肩をすくめた。

「単なる若造ですよ。」

「ヒヒヒ」と笑うハニエルと「ブハァ」と笑うフェンバインに住人達が声をかける。

「爺様も大将も何が可笑しい?」

「教えろ!」

 今や、先程までの怒気は消え失せた。
 楽しげに声をかける住人達にハニエルは手を上げて制した。

「我らにイオリの事を教えてくださった守護者様は、大樹に息を吹きかけられた。
 すると灰色だった大樹に力が蘇ったのだ。
 大樹の輝きが一層に“パライソの森”に力を与えた。
 エルフと獣人を苦しみから解放し、“パライソの森の守護者”を救った。
 それは巡り巡って我らを助けてくれたのだ。
 
 この者は我らが恩人になった。
 自分が認めなくても我らは忘れない。
 
 冒険者イオリ、そして家族の者達よ。
 エルフの代表として感謝する。」
 
 ハニエルの言葉に準じてエルフ達が頭を下げた。

「獣人の代表として感謝する。」

 続けてフェンバインの言葉に準じて獣人達が頭を下げた。

 イオリはくすぐったい頬を掻いて答えた。

「お役に立って良かったです。」

 エルフと獣人の喜ぶ声が響き渡ったのだった。

__________

ピピピピッ
チチチチッ

 小鳥が騒ぐ音で男達は洞窟を飛び出した。

「何事だ!?」

「さっきまで、あんなに静かだったのに・・・。」

 サワサワと木々が楽しげに揺れ、小鳥が歌っている。

「・・・森が喜んでいる?」

 火の国の男ムネタカは部下のロクが驚いて呟いているのを聞いた。

「森が喜ぶだと?」

「いや・・・そう感じたもんで・・・。
 あっ、ほら。」

 指をさせば、虹が出ている。

「吉兆か。」

 ムネタカは微笑んだ。

「何があるか分からん。
 洞窟に戻ろう。」

 忠臣ソウスケの言葉にムネタカは後ろ髪を引かれながらも洞窟に戻って行った。

《美しい虹を、もっと見ていたかった・・・。》

 残念がるムネタカもおいそれと安心できる立場ではない。
 彼にとって不穏な音は、そこまで忍び寄ってきていたのだから・・・。
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