上 下
391 / 781
旅路〜パライソの森〜

399

しおりを挟む
「痛てぇ・・・。」

 ヒューゴの鉄壁のシールドに触れて吹っ飛んだエルフの男は大木に強打した。
 ナギに癒してもらい介抱されているが、痛みで顔を歪めている。

「スマン・・・。
 シールドの解除を忘れていた。」

 申し訳なさそうなヒューゴに周りのエルフや獣人達が笑っている。

「あれは、アズゥが悪い。」

「そうだな。
 あれほどの敵意の打つかり合いをして、すぐにシールドを解除しろって方が無理だ。」

「客人よ。
 気にするな。
 アズゥの自業自得さ。」

 誰しもが心配してくれないと分かると男・・・アズゥは拗ねた。

「はいはいはい。
 どうせ、俺はセッカチ野郎だよ。」

「本当にスマンな。」

 ヒューゴが声を掛けるとアズゥはケラケラと笑った。

「スッゲー吹っ飛んだな!
 見事なシールド使いだ。
 子供がいるのに森で無遠慮に近づいた俺が悪い。
 客人!
 手打ちにしよう。」

 明るいアズゥにヒューゴは笑って頷いた。

 人間を警戒していると名高いルーシュピケの住人にしては、何とも気軽にヒューゴと会話する男だった。

「それで?
 あんなに敵意をひけらかして何だったの?
 まぁ、想像はできるけど。」

 呆れた様に手に腰を当てたリルラがアズゥを見下ろした。

「魔獣を蹴散らしに来たんだよ。
 から、奴らも気が張ってるみたいで、あちこちお祭り騒ぎさ。」

 いくら自然を大切にすると言っても、魔獣達が争い草木を壊す事は“パライソの森”を守る上で良くないらしい。
 聞けば、それもルーシュピケの住人の大切な役目だとアズゥの仲間達が誇らしげに教えてくれた。
 
 アズゥが言う、“森が騒がしい”というのも先程ホワンが言っていた事と関わりがあるのだろう。
 
「イオリ様。
 恐らく、彼らエルフ族に聞いても詳しい事は教えてくれないでしょう。
 とにかく“ルーシュピケ”に向かいましょう。
 首脳陣に話を聞かなければ、我々も事態が掴めませんから。」

 急かすリルラにイオリは頷いた。

「・・・イオリ?
 って、あの噂のイオリ様?」

 驚くアズゥにリルラが微笑んだ。

「そうよ。
 我らの恩人・イオリ様と皆さんよ。」

 驚いていたのはアズゥだけではない。
 他のエルフや獣人達も集まりだしてイオリ達を囲み目を輝かしていた。

「客人が恩人とは・・・。
 おっ!猿のホワンよ!
 お前もいたのか。」

 ニナとナギの側にいたホワンに気づくとアズゥが指差して声を上げた。
 
 興奮している彼等を横目にホワンは「うん。」と小さく頷いた。

「って事は、もご存じって事か?
 ・・・それなら、爺様も知ってるな。」

 思案顔のアズゥにリルラはしっかりと頷いた。

「勿論よ。
 私達より先にガレーを出発した仲間が里に向かったもの。
 ハニエル様は既にご承知のはず。」

「そうか・・・俺達は1週間は里に帰ってないからな。
 一度、帰還しといた方がいいな。」

 ーーーー共に帰る。

 そう決断したアズゥ達、エルフと獣人の集団とイオリ達は共に“ルーシュピケ”に向かうの事になったのだった。
 


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

記憶を無くした聖女様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:42

邪魔者はどちらでしょう?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:88,779pt お気に入り:1,189

この白魔術師は癖が強い 〜私が最強?知らんわそんなん〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:888pt お気に入り:27

旦那様は私が好きじゃなかった。ただ、それだけ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:9

【第2章開始】あなた達は誰ですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:489pt お気に入り:9,700

大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

BL / 連載中 24h.ポイント:667pt お気に入り:4,470

婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,480pt お気に入り:3,025

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,178pt お気に入り:4,853

処理中です...