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旅路〜パライソの森〜

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「・・・俺は何をしているんだ。」

 火の国の男、ムネタカは空を見上げていた。
 青空は穏やかに雲を浮かべているだけだった。

「焦るな。」

 ムネタカの未熟な心を幼馴染の言葉が支えた。

「分かってはいるのだ。
 ただ、こうも何もないと考える事が多すぎる。」

 幼馴染であり、ムネタカにとって忠臣であるソウスケが辺りを見回した。

「本当に此処は穏やかだ。
 ルーシュピケの森と言えば、魔獣の楽園と思って気合を入れていたんだがな。
 これまでに、襲ってくる獲物に出会った事がない。」

ーーー魔獣の楽園。
 まさに、そう呼ばれるのが“パライソ”と名のついた森だった。
 2人は肩透かしを食らった気分だった。

「いや・・・俺は、嫌な予感をしてますよ。
 森が静かなのには理由があるんッスよ。
 俺の鼻が危険を感じてヒクヒクしてやがる。
 2人とも、洞窟から離れないでくださいね。」

 ロクが1人厳しい顔をしているのをムネタカとソウスケは理解出来ずにいたが、素直に頷いた。

 洞窟に戻る時、ムネタカは振り返り、どこか名残惜しそうに、美しく輝く木々を見つめた。

 やはり森はただただ静かだった・・・。

________

バキバキバキバキ
ドーーーン!!

 大木が悲鳴を上げて倒れていく。

「ねー!
 何で、こんなに魔獣がいるの?」

「さっき、パティがキラースクワールを怒らせたからじゃない?」

 パティが襲いかかってくるブラックタイガーの横腹を蹴り倒すとスコルが2つ頭の獅子を峰打ちした。

「2人とも遊んでんなよ!」

 飛んで来ていたボムバグから守る様にヒューゴが盾とシールドで双子を覆った。

ボンッ!!

 ボムバグは握り拳位の丸い虫で暴発して攻撃してくる厄介な奴だった。
 暴発すると気絶して暫く動けなくなる。
 スコルは仰向けでピクピクしているボムバグを鷲掴むと遠くに投げた。

「“パライソの森”に入った途端にこれか。
 進むのもやっとだ。」

 周辺を睨みながら息を吐くヒューゴにスコルは告げ口をする。

「パティがキラースクワールが狙ってた木の実を横取りしたのが悪いんだよ。
 すっごい甲高い声で叫んでたもん。」

 リスの姿をした魔獣は硬い皮の中にプルンッっとした果肉がある木の実が大好物だった。
 それを目の前で奪ったパティが「エヘヘ」と舌を出している。
 ヒューゴはパティの頭を軽く小突くと首を横に振った。

「パティの悪行があったとしても、これは異常だ。
 “明けない魔の森”でも、これ程まで無秩序じゃない。
 ほら、見ろ。
 捕食対象の俺達を狙うだけじゃなく、魔獣同士も争ってる。」

 ヒューゴの言った通りだった。

 至る所で魔獣同士が喧嘩をしていた。
 言うなれば大乱闘だ。

 気を抜いている場合ではない。
 暇だろうとばかりに、再び3人に猪の魔獣が襲いかかった。
 剣を構える3人であったが、次の瞬間だった。

ガルゥゥゥゥゥ 
ガッ!!

 空気が震えるような雄叫びが響き渡った。
 それは滅多に聞かないゼンの全身全霊の威嚇の声だった。

 時間が止まった様だった。

 ピクリとも動かなくなった魔獣達の中を真っ白なフェンリルが悠然と歩いて来る。
 
 成獣化した大きなゼンを魔獣達が距離をあけて観察していた。

ガウッ!

 緊張に耐えられなくなったのか、黄色い塊がゼンに襲いかかった。
 
 双子とヒューゴが声を上げる間もなかった。
 
『邪魔。』

 一瞬の事だった。
 黄色い塊・・・キマイラはゼンの前足によって首を押さえつけられていた。
 
 そこには甘えん坊なゼンはいなかった。
 
アオォォォォン!!

 “パライソの森”に魔獣の王である“純白のフェンリル”が降臨した。

 
 
 


 


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