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旅路〜パライソの森〜

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「森が腐敗?」

 ニナが馬車から顔を出して不思議そうに辺りを見渡してた。
 まるで腐敗などとは無縁そうな爽やかな緑色の景色だ。

「1週間位したら、光り輝いて森が蘇った。
 その日を“復活の日”として祭りが行われる様になった。」

 ニッコリ笑うホワンにニナは不思議そうに「へー。面白い。」と微笑んだ。

「理由は分かっているんですか?」

 イオリが問いかけるとホワンは首を傾げた。

「神のお考えを俺達は知らない。
 でも、あるべき姿が大切だと考えさせられた日々だった。」

 真剣に語るホワンにイオリは何も言えなくなった。

 話を聞いていたパティは分かっていないのか、ニナと同じく微笑んでいるが、スコルとナギは理解しているらしい。
 困った顔でイオリを見上げている。
 
 イオリは静かに首をゆっくりと横に振った。

 2人は賢い。
 頷き返すと、何事もなく再びホワンに視線を戻していた。

 イオリはヒューゴがチラリと振り向いた事にも気づいていた。
 以前話した“パライソの主”との逸話を思い出したのだろう。
 イオリが何も言わないから黙ってようと決めたようだ。

ガコンッ

 ゆっくり進んでいた馬車が止まった。
 
「此処からは歩きの様だ。
 降りて準備開始だ。」

 ヒューゴが笑顔で振り返ると、子供達は馬車から飛び出した。

 美しい森は昨日までの砂漠とは、全く違う景色だった。
 深呼吸をする子供達を見つめイオリは微笑みながら馬車を降りた。

 ヒューゴがハーネスをとってやるとアウラが気持ち良さそうに伸びをする。
 そんなアウラをゼンとソルが労うように顔を寄せ合っていた。

 イオリが首筋を撫でればアウラは嬉しそうだ。
 大型犬の大きさに変化すると、太ももに擦り付いてきた。

「お疲れ様。」

「「「「お疲れ様!」」」」

 みんなが褒めてくれる。
 アウラにとって、それだけで良かった。
 
「賢い子。」

 そんなアウラをホワンは感心して見ていた。

「イオリ様。
 私達は馬車を置いてきます。」

 リルラが指差す向こう側に沢山の馬車が並んでいるのが見えた。

「アレは馬車小屋。
 結界で守られてるから、盗難の心配もない。
 馬達は野生に返る。
 旅に必要なら戻ってきて手を貸してくれる。」

 ホワンが指差すと、こちらを見ていた馬の集団がいる事に気づいた。
 リルラとゴヴァンがハーネスを外すと、馬車を引っ張って来た馬達が、その集団に加わり去っていった。

「馬は賢いから。」

 それだけで済ますホワンにも驚くが、これがルーシュピケの生き方なのだろう。

「不思議ですね。」

 イオリは楽しそうに笑いながら馬車を腰バックにしまった。
 それを見てホワンが目が飛び出るくらい驚いていた。

「不思議は、そっち。
 ありえない物を見た。
 お前・・・変な奴だ。」

「よく言われます。
 お前じゃなくて、イオリって呼んでください。」

 笑うイオリにホワンは恥ずかしそうにモジモジとした。

「・・・イオリ。
 分かった。
 イオリって呼ぶ。」

 リルラ達が戻ったところで、イオリ達は“パライソの森”へ足を踏み入れたのだった。

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