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旅路〜パライソの森〜

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「キャーーーー!!」

 ニナの叫び声にイオリ達は一斉に走り出した。
 
 そこには震えるニナの腕を握る毛むくじゃらの手が草から伸びでいた。

「妹の手を離せ。」

 怒気を孕んだ低い声でヒューゴが大剣に手をかけると、イオリが慌てて止めた。

「待った!
 相手に敵意はありません。」

 イオリも何かの気配に気づいていた。
 それでも放置したのは相手に悪意がなかったからだ。

「イオリ様の言う通りです。
 どうか、剣を納めてください!」

 そこに1人の男が木から飛び降りてきた。

「「コナー!」」

 リルラとゴヴァンが驚いたように叫んだ。

「・・・コナー? 
 あぁ、鳥の人ですね?」

 イオリが思い出すように言うと男は嬉しそうに膝まづいた。

「思えて頂いて光栄です。
 私はイオリ様に解放して頂いた1人、鳥の獣人のコナーと申します。」

 コナー・・・ミズガルドの元貴族、ヴァハマンの奴隷だった時は“ブールジョン”と呼ばた鳥の獣人の男だ。
 空を飛べる特技を生かし、様々な屋敷の屋上から忍び込む隠密だった男だ。

 ヒューゴの警戒が解けずにいるのに気づくとコナーは草村を掻き分けてニナの手首を掴む男を引きずりだした。
 
 そこには、小男が怯えたように立っていた。

「コイツは猿の獣人で、ホワンと言います。
 身のこなしも素早いし、木登りなんかも得意なんで、森に入ってきた人間なんかを見つけるのが上手いんです。
 今回も、イオリ様達を迎えるにあたって連れてきたんですが・・・。」

 申し訳なさそうなコナーにリルラの厳しい視線が突き刺さっているのが分かる。
 怒られているのは分かっているのに、決してニナの手を離そうとしないホワンにイオリは首を傾げた。
 
 するとゼンが、ニナの足元に落ちているベリーを何やらクンクンとしていると思ったら、とても嫌そうに後退りをしている。
 イオリは同じ物をニナが握っているのに気づくとベリーを掴み、鑑定をした。

「・・・ナーブベリー。
 ニナ!食べた?」

 イオリの鋭い声にニナが涙目でフルフルと首を横に振った。

「ブラックベリーに似てるけど、このベリーは毒性がある。
 ・・・貴方はニナが食べようとしたのを止めてくれたんですね?」

 イオリが伺うように言うとホワンと気まずそうに頷き、やっとニナの手首から手を離した。

 ニナの手に握っているのが毒と分かるとナギが駆け寄りはたき落し必死に洗浄し始めた。

「・・・食べなくて良かった。
 アレ食べると10日は水も飲めない。」

 そう言うホワンにイオリの背後でヒューゴがバサッと頭を下げた。

「妹を助けてくれたのに、敵意を向けて申し訳ない。
 感謝する。
 ありがとう。」

 ヒューゴの謝罪の後でリルラとゴヴァン、そしてコナーが安堵の溜息を吐いていた。

「俺からも礼を言います。
 ありがとうございました。」

 イオリも礼を言うと、それまでとは違う満面の笑みでホワンが笑った。

「小さい子、無事で良かったね。」

 ルーシュピケにきて初めて出会った住人は、どこか頼りないが優しい小男だった。
 


 
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