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旅路〜デザリア・ガレー〜

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 屋敷を出たタージ・ラバンは、すぐに動き出した。

「噂を流せ。
 《挨拶一つない新参者に豪商タージ・ラバンが憤慨している。
 どうやら、新参者はラバン商会を軽くみているらしい。
 新参者に組みする全ての者に制裁を加えると意気込んでいるぞ。》と。
 ・・・炙り出せ。」

 タージ・ラバンの言葉にユーフとルトゥは頷いた。

「商人ギルドも刺激しておきましょう。
 領主様の御了解を得ているのですから、無理をしても問題ないでしょう。」

 ユーフの悪い顔の隣でルトゥが頷いた。

「それなら、まずはという女を狙っていきましょう。」

 ルトゥの提案にタージとユーフは顔を見合わせた。

「根拠は?」

 ルトゥは顔を歪めた。

「異変を感じ取った後、商人ギルドに向かった際に、この受付係が妙に偉そうな態度だったんですよ。
 2週間前には、全く印象がなかった女です。
 それが急にですよ。
 それと・・・。
 息子達が目撃してるんです。」

 ーーールトゥの息子と言えば、領主の息子と仲良くしていたはずだ。

 タージ・ラバンはルトゥを促した。

「何を見たって?」

「“カズブール商会”の会頭カファス・カズブールとサーヘラが頻繁に会っているそうです。」

 報告を聞いたタージ・ラバンは目を細めた。

「それは本当か?
 だとしたら、サーヘラという女は狙い所だな。
 子供達の目も馬鹿にできないな。」

 満足そうなタージ・ラバンに声がかかった。
 実に楽しそうなリルラだった。

「何を感心しているんです?
 大人より子供の方が、物事を見ていますよ。
 それを正しく判別しているかは別の話ですがね。
 私の方も噂話とやらを流しましょう。
 相手を祭り上げれば良いんですね?」

「あぁ、頼む。
 ・・・ガレーにツテがあるのか?」

 訝しげるタージ・ラバンにリルラは鼻で笑った。

「長年、旅をしてますから。」

「・・・おい。
 本当に君は何者なんだい?」

「“ホワイトキャビン”の旅団長ですよ。
 只の旅団長です。」

「そんな訳あるかっ!」

「あぁ、“イオリ様を敬愛している”をつけ忘れていました。」

 肩をすくめて可愛らしく微笑むリルラはラバン商会の面々を置いてスタスタと歩いて行った。

「うーむ。
 何とも手強い・・・。」

 唸る主人をユーフが小突いた。

「リルラ様の事は今はおいておきましょう。
 我々も早速、取り掛かりますよ。
 早かったら、今日中に引っかかるでしょう。
 旦那様は迎え撃つ準備をしてください。」

「分かっているさ。
 誰もが一瞬で虜になる男になってやるよ。」 

 ユーフは満足そうに頷くとニヤリとした。

「えぇ。それだけが取り柄ですからね。
 ルトゥさん。行きましょう。
 ネイルさん。
 主人を頼みます。」
 
「分かった。
 楽しんでこい。」

「ハイッ!」

 ユーフとルトゥが去っていくのを見送るとタージ・ラバンは護衛役を呆れた様に見上げた。

「ネイルさ。
 これから人を嵌めようとしている若者に楽しんでこいは違くないか?」

「そう?
 アイツ元気に返事してたじゃないか。」

 嬉々としたユーフを思い出し、育て方を間違えたかと悩むタージ・ラバンだった。
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