続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜デザリア・ガレー〜

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「しかし、父上。
 聖女が“神の愛し子”などとは・・・。
 それは我が国の神話でしょう?
 作られた逸話だ。」

 困惑していたのはイオリだけではない。
 ガレー公爵家の現当主であるジュード・ガレーも父の言葉に懐疑的であった。

「我が国は他国よりも魔法使いが多いのは何でだと思っている?」

 デザリアの軍部隊の中心は魔法軍である。
 ハーディ翁の楽しげな顔にジュード・ガレーは国の筆頭魔法使いシモン・ヤティムに視線を向け、助けを求めた。
 シモン・ヤティムは困ったように肩をすくめると、イオリに向けて話し始めた。

「アースガイルでは魔法使いよりも騎士の方が多かっただろう?
 それは、国が築かれた時に遡ると初代国王が騎士だったからだ。」

 イオリとヒューゴは顔を見つめ合い頷いた。
 
 初代国王マテオ・アースガイルは騎士だ。
 そして、その彼に剣技を授けたのは“神の愛し子・ジュウゾウ”である。

「我が国の初代国王アーマッド・デザリアは武勇においては決して長けているとは言い難かった。
 それは、本人が認めているところであるから間違いない。
 アーマッドは錆びた集落の長の息子であった。
 戦う術など多様には持っていなかった。
 神鳥の恩恵を受けた彼の武器は粘り強い精神力と類い稀なる交渉術だった。
 言葉を巧みに使い国をまとめ上げていったのだ。」

 戦わずして言葉だけで王の地位を確立したアーマッド・デザリア。

「それは・・・すごい事ですね。」

 国をまとめるのに武を有したマテオ・アースガイルが間違いという訳ではない。
 しかし、武器を手にして己の身を守ろうとする相手に素手で向かうアーマッド・デザリアも尊敬に値する人物である事に間違いはない。

「国を纏めるだけならば、アーマッドのやり方には問題がなかったのかもしれない。
 しかし、内側の問題が解決すると外から揉め事がやってくる。
 今度は武力の争いも厭わない者達が相手だ。」

 ーーー守る為の武力がデザリアにはなかったのだ。

 小声になったシモン・ヤティムを助けるようにハーディ翁が声を発した。

「そこに聖女が誕生した。
 生まれながらに水と風を操っていたと記録されている。」

「生まれながらに力を持っていた・・・。」

 考え込むイオリを心配しながらもヒューゴは問いかけた。

「その聖女の力がデザリアの魔法の基礎になっている。
 だからデザリアには魔法使いが多いと?」

「その通りだ。
 我らの魔法の技術の多くは聖女の手によって生み出され、国を上げて受け継がれてきたのだ。
 神鳥によって“神の愛し子”と神託された聖女は国の防衛において尽力され、のちに女王に即位された。
 在位は2年。
 短い時代だった。
 若くして国を護った聖女は歴史に埋もれつつある。」

 シモン・ヤティムの解説にジュード・ガレーも重く受け止めていた。

「青年よ。
 其方は奇妙な武器を使い、ダンジョンを攻略したと聞いた。
 神鳥様に名付けをしたのも青年だとも。
 そんな大それた事を許されるのは“稀れ人”・・・“神の愛し子”と呼ばれる者達だけだろうて。」

 ハーディ翁のまっすぐな笑顔にイオリは観念したように微笑んだ。

「よく、そう言われます。」

 ハーディ翁はこの上なく嬉しそうな笑顔で「そうか。」と頷いたのだった。
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