上 下
304 / 781
旅路〜デザリア・王宮〜

312

しおりを挟む
「皆さん、どうもお待たせしました。」

 群衆の中から声をかけて来たのはラバン商会の会頭タージ・ラバンであった。
 驚くべき事に旅の衣装に身を包んでいる。

「まさか、タージさんも行くんですか?」

 戸惑うイオリに髪をかき上げ笑顔で頷き馬車を指差した。

「勿論ですよ。
 ガレーのカカオ農園はホワイトキャビン事案ですが、ラバン商会にとっても大きな儲けのチャンスですからね。
 この目で見ないでいられますかっ!」

 興奮気味の顔を近づけてくるタージ・ラバンにイオリの顔が引き攣る。
 
「やめろ。
 イオリさん。
 この男はこんなでも一流の商人だ。
 契約などに関して役に立つ。
 それに旅の邪魔になるのなら、魔獣の餌にでもしてしまえば良い。」

 ロス・グラトニーがタージ・ラバンの首根っこを力強く引っ張っる。

「ちょっとロス兄さん!
 魔獣の餌って酷いじゃないか。
 えっ・・・?
 そんな事しないよね?
 しないよね?」

 イオリの後ろから顔を出しニヤニヤしている双子にタージ・ラバンは冷や汗を掻いた。

「イオリ様。
 唐突に我々ホワイトキャビンが顔を出すよりもデザリアで信頼が厚いラバン商会に仲介して頂いた方が先方のご夫婦が安心されます。
 ここは同行を願いましょう。」
 
 リルラの手助けもあってタージ・ラバンもキャラバンに加わる事になった。
 彼の馬車にはタージとその補佐、そして護衛の3人が乗る事になるそうだ。
 今は、補佐と護衛の2人が出発の準備をしている。

「これは想像より大所帯になったな。」

 並んだ3台の馬車を見て苦笑したヒューゴにイオリは困ったように眉を下げた。

「なんだか変な事になっちゃいました。」

「良いじゃないか。
 アイツらが楽しそうだ。」

 微笑むヒューゴの視線の先を見れば、子供達がそれぞれの馬車を覗いてははしゃいでいる。
 
「・・・そっか。
 皆んなが楽しそうなら良いか。」

 諦めたような笑顔をするイオリにヒューゴは笑った。

 クイッと裾を引っ張られ、下を見ればゼンが後を振り返った。
 イオリもつられて見れば、そこに黙って立ったままのバキル・カルダイン侯爵が立っていた。

「あっ。」

 イオリが慌てて会釈をするとバキル・カルダインが聞こえるか聞こえないかのような小さな声で囁いた。

「・・・世話になった。」

「いいえ。
 俺は出来る事をしただけです。」

「・・・そうか。
 我ら一族は今回の事態に打ちひしがれた。
 それでもスルターンと君に与えられた機会を無駄にしない。
 この巡り合わせに感謝している。」

 決意を込めた瞳にイオリは頷いた。

「ご健勝をお祈りします。」

 バキル・カルダインが恐る恐る出す手をイオリが力強く握ると互いに顔を見合わせ微笑んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

結婚して5年、初めて口を利きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:40

学校で癇癪をおこしてしまい逮捕されてしまう男の子

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:0

ピクン、ピクン、あん…っ♡

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:43

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,096pt お気に入り:642

支配者達の遊戯

BL / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:862

よく効くお薬

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:1,482

獅子王は敗戦国の羊を寵愛する

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:207

鑑定や亜空間倉庫がチートと言われてるけど、それだけで異世界は生きていけるのか

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:4,842

処理中です...