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旅路〜デザリア・王宮〜

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「・・・行ったか。」

 短い溜息を吐くとウェッジは辺りを見渡した。
 ギルマスに睨まれると数人の冒険者達が気まずそうに視線をそらした。

 良くない事を考えていた証だ。

 アースガイルの冒険者と比べて“黒狼”の恐ろしさを理解してない愚か者。
 
 この街でウェッジの怒りを買おうものならダンジョンに入ることすらできはしない。
 賢い連中はイオリの事を放っておくだろう。
 
 個室から出てきたフォートナムも同じ事を感じているのだろう。
 一見したら分からないほどの殺気を込めてフロアを笑顔で見つめていた。

 デザリアを出るまでで良い。
 王すら心酔している男の・・・野獣の尾を踏む奴らが出ない事を祈るウェッジだった。

「あーーーーーー!!!」

 そんな中、悲鳴めいた叫びが聞こえた。
 何事かと当人を視界に入れれば、受付係のエリーヌが紙の束を抱えてキョロキョロとしていた。

「・・・何してる?」

 ウェッジが目を細めて問いかけると、エリーヌが必死の形相で近寄ってきた。

「ギルマス!
 ヒュっ・・・ヒューゴ様は!?」

 血走った目のエリーヌにウェッジは眉を顰めた。

「帰ったが?」

「どーして!?
 どーして、引き止めてくれなかったんですか!!」

「・・・買取金は渡した。
 他に用はないだろうが。」

「お渡ししたい物があったんですよ!」

 ウェッジはエリーヌが突き出した紙の束を恐々と手に取りパラパラ捲った。

「・・・なんだこれ?」

 ゲンナリしたように溜息を吐いたウェッジに身を乗り出すようにエリーヌは目をキラキラさせた。

「広告ですよ!
 ヒューゴ様の素敵な魅力を皆さんにお伝えするんです!!」

 そこには絵師に頼んだのかと言うほどに、美しく描かれたヒューゴがいた。

「美しいでしょう?
 世の女性は、こーゆうのを求めているんです!
 見て下さい!こっちは微笑んでいるヒューゴ様。
 こっちは妹様を抱き上げているヒューゴ様。
 極め付けは、イオリ様とヒューゴ様のコンビの戦闘シーンです!」

 よく見れば、エリーヌの目の下にクマがある。

 頭が痛くなってきたウェッジは頭を抱えながら呻いた。

「まさか、これ全部お前が書いたのか?」

「気づいてくれました?
 そうです!
 この数日、夜通しで描いたんですよ!!」

 ご満悦なエリーヌはギルド中の視線を集めている事に気づいたいない。

「失礼。
 お預かりします。」

 颯爽とやってきたフォートナムは魔法を詠唱し、掌に一瞬で炎を出し紙の束を消し炭にした。

「あぁぁぁぁぁぁ!!
 何するんですかぁぁぁぁぁ!!
 ヒューゴ様ぁぁぁぁぁ。」

「あなたは、バカですか?
 静かに送り出せというギルマスの指示をギルド職員が率先して破ってどうするんですか?」

 ショックで膝をつき、燃えカスを手にするエリーヌをフォートナムがブリザードな目で見下ろした。
 ドン引きしている冒険者達を見回しフォートナムは声を張り上げた。

「皆さんも理解しましたね。
 せいぜい、大人しくダンジョンが再開されるのを待つ事です。
 彼らに迷惑をかけた愚か者には厳しい罰があると思いなさい。
 ・・・エリーヌ。
 手始めは貴方です。」

「私の三日が・・・。
 ヒューゴ様ぁぁぁ。」

 問答無用でフォートナムに引き摺られていくエリーヌの悲痛な顔をウェッジとウパは死んだような目で見つめていた。

「さぁ、仕事でもするか。」

「そうですね。
 あのアホは諦めましょう。」

 ヒューゴは既の所で危機を回避したのだった。
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