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旅路〜デザリア・王宮〜

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「ならば、生涯を国に捧げよ。
 どんな辛い苦しい命令もカルダイン家は拒んではならん。」

 戻ってきた宰相の檄飛ぶ言葉にバキル・カルダインは困惑しているようだった。

「今も国に身を捧げています。
 それでは罰になりません・・・。」

「《デザリア法104条:貴族が罪を犯した場合、王だけが裁きを申し渡す事ができる。》
 こんな基礎中の基礎を忘れたとは言わせんぞ。」

 貴族が罪を犯した際、それを他家の貴族が私刑をこなったり罰を与えれば、のちの争いの火種になる恐れがあるとして作られた法律である。
 今回の事件と道理が違う法を持ち出され、バキル・カルダインは反論しようとしたが、宰相ナロ・シウバは、それを無視して澄ました顔で王の元へ歩み寄った。

「スルターン。御命令下さい。
 今回のような場合、先の王達は同じ選択をしてまいりました。」

 ナロ・シウバの言わんとした事を理解したデザリア王は頷くとバキル・カルダインに申し渡した。

「デザリア王ダマン・デザリアとして申し渡す。
 カルダイン侯爵家、並びに準ずる一族よ。
 今後一切の怠惰を許さぬ。
 国に使え国民に使えよ。
 どんなに厳しい時代が訪れようとも、国民の剣となり盾となれ。
 その努力を怠らずに持ちいた頭脳を生かし、国の礎を支える糧となれ。
 我ら王家が愚の道を選びし時には剣を持って、それを制し、その後一族郎党が謀反人と処理されようとも、国の為、民の為に己が命をかけよ。」

 バキル・カルダインはデザリア王が選んだ沙汰を静かに聞いていた。
 その肩が震え涙を流している事は部屋にいた全ての人間が分かっていた。

 カルダイン家の処分は終わった。

 しかし、問題の全てが解決されたわけではなかった。

 バキル・カルダインが部屋を辞していくと宰相ナロ・シウバが王に報告書を差し出した。

「王よ。
 例のカルダイン家の奥方にピアスを売った商人についての報告です。
 商人の素性はカルダイン家が調べる程に真っ当な商売をしている宝石商で御座いました。
 店頭で扱うのではなく、贔屓を得ている客の屋敷に通い、依頼された宝石やアクセサリーを探し出すという商売の仕方をしております。
 今回はカルダイン家の奥方が王女に使える甥と姪の為に護りのアクセサリーをとの依頼で火の国で産出されたブルーダイヤモンドのピアスを納品したとの事でした。
 手に入れた先は火の国の旅商人との事で、初めての取引ではないそうで信頼して買い取ったと報告されています。」
 
 ーーーーブルーダイヤモンド
 「絆を深める」「永遠の幸せ」の意味を持つ希少の石である。
 カルダイン家の奥方が一族の若者2人が共に王女バシラ・フレールの元で勤めるとなり、行く末を祈りを込めて贈ったのだろう。

 今回の事でイオリ達は火の国の巫女への警戒を深めた。

 アースガイルの貴族だったコンタン・オンリールの所業は自らが望んだ事であり、処罰を受けた事も己が所為であった。
 だが、カルダイン家によってもたらされた魅了のピアスはデザリア王家を狙い撃ちされたようでもあり、逆に誰にでも手にする事が出来てしまうと証明されたのだ。
 
「人の善意を利用したやり方に憤りを感じるしかない。」

 吐き捨てるように言う王に一同は同意するのだった。

 もし、無闇にばら撒かれているとしたら?
 知らずに争いが起こってもおかしくない。
 
 再び世界の秩序が乱されようとしている。
 
 デザリアの中枢は火の国への得体の知れない危険性を感じ取ったのだった。

 


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