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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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「バシラ・フレール様の変貌は我々、大人達の罪なのだろう・・・。」
 
 シモン・ヤティムの回想をイオリは静かに聞いていた。

 文句を言わずに森をかき分けながら歩くスコル・パティ・ナギ・ニナを見つめ、溜息を吐く筆頭魔法使いは何か思う事があるのだろう。

「・・・そうかな?」

 イオリの呟きがシモン・ヤティムの耳に届いた。

「何がだ?」

「・・・いや。
 確かな事じゃないんで・・・。
 まぁ、帰ったら話しますよ。」

 問い詰めても、これ以上話す気がないのだろう。

 イオリはポテポテと前を歩くニナをヒョイッと抱き上げると「キャハハ!」と楽しげな声をあげる末っ子の反応に一緒に笑った。

「大丈夫ですよ。
 イオリに任せてください。」

 イオリと妹に視線を向けながら微笑むヒューゴがシモン・ヤティムに話しかけた。

「・・・イオリ殿に?」

「はい。
 妹は・・・俺達は数年前まで奴隷だったんです。」

 ヒューゴの暴露にシモン・ヤティムは驚いた。

「奴隷・・・。」

 そんな、シモン・ヤティムの反応にヒューゴは苦笑しながら肩をすくめた。

「この国での奴隷が、どの様な存在かは分かりませんが、アースガイルでは一定の人権が認められています。
 俺達は親の借金の為に身を売った人間です。」

「・・・そうか。
 我が国では犯罪者が奴隷になる事が多い。
 しかし、アースガイルでの奴隷の立ち位置は理解している。」

 ヒューゴはイオリに買われ、共に行動した後にアースガイル国王によって褒賞が出た事で自由の身になった事。
 奴隷時からイオリを信用していた事から家族としてパーティーに参加している事を伝えた。

「そうか・・・。
 アースガイル国王が・・・。
 イオリは国主からも信頼されているのだな。」

「はい。
 我々が出会った時、妹のニナは話す事が出来ませんでした。
 それどころか、笑う事すらなかった。」

 シモン・ヤティムはイオリと戯れる小さな少女を驚いて見た。

「そんなニナでしたが、イオリと初めて会った時に笑ったんです。
 俺には、妹の笑顔がイオリを信用するのに十分な情報でした。
 アイツは・・・イオリはアースガイルの多くの場所を笑顔に変えました。
 王族だろうと、貴族だろうと、平民だろうと・・・。
 アイツにとって皆、等しい人間なんです。
 この国の姫君にお会いした事はありませんが、イオリは思う所があるようです。
 大丈夫、イオリに任せてください。」

 無骨な男と思っていたヒューゴの熱弁にシモン・ヤティムは小さく頷いた。

 イオリがバシラ・フレール様に会うには主人であるダマン・デザリア王の許可が必要であるが、父王の怒りを買っている姫君に簡単に会えるかは未知数である。

 それでも、自分の目が・・・心が、奇跡を見せてくれた若者を信じようと決めていた。
 
 もし、イオリが王と対峙した時に間を取り持つのは自分の役目である。

 僅かな期待が筆頭魔法使いの心に勇気を持たせた。
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