上 下
226 / 781
旅路〜デザリア・ダンジョン〜

234

しおりを挟む
 “エルフの里の戦士”2人は近づいてきた若者に負けるなど考えてもいない。
 

 地獄のような痛みは緩和されつつあるが、目の前に現れた子供達が襲ってきた事には確かに驚いた。
 自分達の里にも、あんなに戦闘力のある子供はいない。

 怒りに任せて子供達を襲うも、次に現れた男のスキルに阻まれた。
 
 “シールドのスキル”

 鬱陶しい奴が現れた。

 スキル持ちとの戦いは相手を凌駕すれば、スキルの効果を弱める事が出来るが面倒である事は間違いない。
 それに加えて唐突に周囲を土壁で覆われた。
 
 逃げるなど“エルフの里の戦士”には考えもしないが、囲われているのは良い気がしない。
 
 悠々と最後にやってきたのは変な奴だった。
 戦闘だというのに笑っている。

《脆弱な人間は頭も愚かだ。》

 2人のエルフは、そう思っていた。

 それがどうだ。

 今、目の前の若者の瞳は脆弱な人間のものではない。

 ーーー狼。

《あれは捕食者の目だ。
 やらなければ狩られる。》

 2人のエルフは手に汗を掻いているのに気がついた。

《ありえない。
 人間ごとに気に崇高な我々が恐れを抱くなど・・・。》

 痺れる手に力を込めて剣のエルフが若者に襲いかかった。

「オラっ!」


 若者はヒラリっと剣を避けて見せた。
 
 いくら攻撃しても、若者は素早くエルフの剣技を避けていく。

「逃げるだけか!
 情けない!」

 そんな2人の戦いをシールドを張った男は手を貸す気はないようだ。
 それもそうだ。
 彼の役目は子供達を守る事。

 若者が危険でない限り、彼の好きにさせるだろう。

 そんな中、手首を撃ち抜かれた魔法のエルフは苦しみながらも、もう片方の手で杖を掴んだ。
 シールドを相手にするよりかは、逃げ惑う若者を相方ごと攻撃してしまえばいい。

 共に旅立った相方であるが、ここで命を散らしてもダークエルフ・ルミエール様の御霊の一部になれるなら本望であろう。
 2人に狙いを定めて呪文を唱え出した。

「バウッ!!」

 そんな魔法のエルフの考えを打ち砕くように、白い塊が襲いかかった。

「何っ!」

 辛うじて避けた魔法のエルフの前に現れたのは・・・

「・・・フェンリル。」

《何故ここに、フェンリルが?
 ダンジョンで現れたのか?
 しかも“純白のフェンリル”だと・・・。》

 戸惑う魔法のエルフを大きな体のフェンリルが威嚇する。

「ぅぅゔゔゔ・・バウッ!!」

 フェンリルが放つ暴風に魔法のエルフは炎で防いだ。
 
 しかし炎の勢いを強くするのは風だ。

 魔法のエルフの繰り出した炎は彼のコントロールを失いつつあった。

「なんて事だ・・・ついていない。
 こんなところでフェンリルとは。」

 何とか力を制御しようとする魔法のエルフの背後から声が飛んだ。

「こらっ!ゼン!
 炎がこっちまでくるよ。
 何とかしてよ。」

 相方と戦っていた若者の声に魔法のエルフは動きを止めた。

『ごめん!
 だって、この人さ。
 イオリに魔法使おうとするんだもん。』

「心配してくれてるのは分かってるよ。
 でも、火はダメ。
 風は火を大きくするからアブナイ。
 熱いのツライ。」

 何故かカタコトの若者にフェンリルが楽しそうに笑った。

『分かったぁ。
 噛み付く事にする!』

 若者がフェンリルと会話している。
 魔法のエルフは瞠目した。

 そんな訳がないのだ。

《伝説の魔獣であるフェンリル。
 しかも純白のフェンリルだ。
 
 その純白のフェンリルが人に従っているだと》

「・・・そんな事、あってたまるかぁぁぁぁ!!」

 魔法のエルフは炎を膨大にしてイオリに投げつけたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

召喚勇者の餌として転生させられました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,177pt お気に入り:2,255

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:92

【本編完結】捨てられ聖女は契約結婚を満喫中。後悔してる?だから何?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:7,997

約束が繋ぐキミとボク

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:776

処理中です...