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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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 イオリが撃った銃弾が着弾すると一帯が煙に包み込まれ、中から苦しそうな声が聞こえた。

「よしっ。」

 ヒューゴは、まだ見ぬ敵の惨事を予想し拳を握った。

「ヒューゴ様・・・あれは?」

 煙を不思議そうに見つめるゴヴァンをヒューゴが振り返った。

「吸うと喉や目が焼かれるように痛くなるんですよ。
 普段は魔獣の撃退に使っています。
 イオリの奴、相手が見えなくなったから広範囲の攻撃を仕掛けたんでしょう。」

 分かったような分からないような顔でゴヴァンは頷いた。

「イオリの狙撃は狙いを外しません。
 それも相手が見えていればの話です。
 ゴヴァンさん。
 俺も、戦闘に備えます。
 馬車をおまかせして良いですか?」

 ヒューゴの言葉にゴヴァンは自分の出番だと張り切って御者席に移動した。

「あれっ?
 双子は?」

 ヒューゴがナギに問いかけると、ナギは肩をすくめて煙を指差した。

「行っちゃった。」

「おいおいおいおい!
 何やってんだ!声かけろよ!」

 慌てて、ヒューゴが飛び出せば、さっきまでの煙は消え悶えるエルフに双子が襲いかかっているのが見えた。

「おいおいおい。
 待てって・・・。」

 呆れるヒューゴであったが、口元は笑っていた。

 一連の攻撃をシモン・ヤティムは驚愕して見ていた。

「あの煙は何だ?
 なぜ、子供達が飛び出した。
 銃とは何だ?
 何が何だか分からん。」

 呟くシモン・ヤティムにイオリは苦笑した。

「双子はAランク冒険者です。
 そこら辺の冒険者より強いですよ。
 ヒューゴさんも行ったし、大丈夫です。
 銃とは俺の武器ですよ。
 ほら、俺たちも行きましょう。」

 イオリに促され、シモン・ヤティムは馬車を降りた。

 ディビット殿下やアレックス達がイオリを規格外といった訳が理解できた。
 イオリが繰り出した煙は魔法だ。 
 それも、“デザリアの筆頭魔法使い”ですら解明できない力で放出した。

《敵に回すなとは言ったものだ。
 誰が、こんな化け物じみた若者と喧嘩をするのだ。》

 シモン・ヤティムは諦めたような息を吐いた。

「それで?
 あれが“ダークエルフの置き土産”か。」

 隙をついた双子の攻撃がかわされたのを見てイオリは肩を竦めた。

「普通だったら、当てられる攻撃なんですけどね。
 流石“エルフの里の戦士”といったところでしょうか。」

 ーー“エルフの里の戦士”とやり合うなら1国の軍を連れて来い。ーー

 多くの国で共通して恐れられている言葉だ。

 それを年はもない少年少女が臆することもなく挑んで行った。
 恐れを知らない未熟さか、己の力の自信かは分からないが双子の行動にシモン・ヤティムは感心していた。

《自分達がダメでもイオリとヒューゴが何とかしてくれるという絶対の信頼なのだろう。》

 案の定、怒りに任したエルフ達の攻撃をヒューゴがシールドで防いでいる。

 覚悟を決めたシモン・ヤティムはブツブツと詠唱すると己の杖に力を込めた。

 その様子を馬車からナギとニナが見つめていた。

 杖を地面にトンっと置くとシモン・ヤティムの足元に模様が浮かび上がった。

 次の瞬間、イオリ達を含め一帯を土の壁が全員を囲んだ。

 驚いたのはイオリ達だけではない、“エルフの里の戦士”2人も唖然として高く聳え立った壁を見上げた。

「私もデザリアで筆頭を任された魔法使いだ。
 ここまで来たからには役に立とう。
 奴らをここから絶対に逃すまいよ。」

 イオリは可笑そうに笑うとスナイパーライフルを腰バックにしまい、両手に銃を構えた。

「シモンさん。凄すぎます。
 彼らは俺達に任せて下さい。」

 スタスタと歩くイオリの背をシモン・ヤティムは苦笑して見送った。

「さて、どうなる事やら。」

 そんな呑気なイオリを2人のエルフが睨み殺さんばかりに殺気に満ちた顔で見つめていた。

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