続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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 砂漠の民であるシモン・ヤティムにとって車輪のついた馬車は馴染みがない。

 砂漠を移動するときは砂に強い魔獣かリャマという動物に乗る。
 王侯貴族や物資を運ぶ商人などは多くの場合、板のついた大型のソリなどを用いる事が多い。

 他国に赴く際にゴロゴロと揺れる馬車の乗り心地は気分の良いものではなく、むしろ不快に感じる事もあった。

 しかし、今は問題外だ。

 凄まじいスピードで駆け抜ける風と一瞬にして変わる景色が、いつも冷静なシモン・ヤティムの思考を狂わしている。

「あぁぁぁぁぁぁ。」

 ずっと悶えている彼を気遣うのは小さな少女だけである。

「飴あげようか? 
 スースーするのニナ嫌いだけど、大人の人は好きって言うよ。」

 通常の飴にミントを混ぜた味はニナには早いようだ。
 少女の気遣いに感謝してシモン・ヤティムは綺麗な薄緑色の飴を貰った。

「・・・甘い。」

 砂糖の塊に味をつけるなど、なんて贅沢なのだ。
 アースガイルは、前以上に豊かな国になっているのではないか?

 そんな事を考えながら、この地獄のような時間が過ぎるのを待った。


「そろそろ、近いですね。」

 静かに立っていたイオリが呟いた。

「“エルフの里の戦士”か?」

「恐らく。」

 時折、いい加減に思えるイオリの表情が険しくなった。

 一心不乱に前だけを向き走り続けていたアウラがスピードを緩めたように感じた。
 シモン・ヤティムがホッとしたのも束の間、アウラが走りながら大幅に横に移動した。

 馬車の車体が大きく傾くも、頑丈の躯体が乗っている人間達を守ってくれていた。

「今のは!?」

 慌てながらも、転がるのを楽しんでいる子供達を目で追うシモン・ヤティムにイオリはニッコリとした。

「どうやら、気づかれたようです。」

 まだ敵も見えぬうちから、前方から火の玉がやってきる。
 続け様にやってくる予感からヒューゴが叫んだ。

「シールドを張る!
 出来るだけ顔を出すな!」

 すぐさま馬車がヒューゴのシールドに守られるとイオリは落ち着いて前方を注視した。

「いた。
 1人は剣士、もう1人は魔法を使うみたいです。
 今の火の玉は魔法のエルフですね。」

 イオリは馬車の屋根に登るとスナイパーライフルを構えた。

 シモン・ヤティムもゴヴァンも、やっと事態がヒリつき始めたと理解し動き始める。

「あっ。
 逃げられた。
 いや、隠れたんですね。」

 草原エリアはひたすら広がる草っ原が続いている。

 つまり身を隠す事も難しいのだ。
 先程から襲いかかってきた魔獣達も草むらに身を潜めて、唐突に飛び出してくるのだ。
 そんな草原に隠れる場所などないに等しい。

「いないなら、炙り出せってね。」

ドンっ!!

 イオリがスナイパーライフルを打ち込むと、先ほどまでエルフがいたエリアに一斉に煙が立ち込められた。
 煙の正体は催涙弾だ。

 例え、直撃は免れても無事では済まないだろう。

 イオリの破天荒な戦いぶりにシモン・ヤティムは、ただただ唖然とするしかないのであった。
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