続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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「なんだこれはぁぁぁぁぁ!!」

 草原を颯爽と走る馬車に筆頭魔法使いのシモン・ヤティムは叫んでいた。
 
 人生の経験からは考えられぬスピードでバトルホースのアウラが前方に進んでいた。

「イっ・・・イオリ殿ぉぉ!
 これは一体!!
 何なのだぁぁぁ!!」

 馬車の車体にしがみつくシモン・ヤティムをよそに子供達は楽しそうに風を浴びている。

「前を先行する敵に追いつくには馬車かなって。
 ほら。草原ですし。」

「そそそっ・・・それでは説明になってないのだよ!」

 屋根から覗き込むイオリにシモン・ヤティムは絶叫した。

「大丈夫ですよ。
 躯体は立派な造りですし、アウラは馬力があるんで。」

 少しでも安心させようとするイオリであったが、シモン・ヤティムの顔色は戻らない。

「・・・イオリ。
 それでは無理だろう。
 シモンさん。
 この馬車はイオリが作った特注です。
 前を急ぐんで我慢して下さい。」

 決してフォローになっていない言葉をかけながらヒューゴが御者席から振り返りながら笑った。

「ヒューゴ殿!前っ!前を見なさい!!」

 そんなヒューゴにシモン・ヤティムは慌てて前を指差した。

「大丈夫ですよ。
 アウラは賢いんで、俺なんて手綱を持っているだけです。」

 前から突っ込んでくるサイのような魔獣をヒョイと避けるアウラにシモン・ヤティムは目も開けられないようだ。

ドンっ!!

 イオリが銃を放った音がする。

 ダンジョンが目覚めてから暫く経つと魔獣達も目を覚ましたのか、先程から見かけるようになってきた。
 草原のエリアと呼ばれるこのエリアは現れる魔獣や獣を目当てにやってくる冒険者も多い。

 しかし今は、誰もいない。

 鉱山エリアから出た時にイオリが腰バックから馬車を取り出すとシモン・ヤティムとゴヴァンを驚かせた。

 その後、想像以上のスピードに面食らうシモン・ヤティムを裏腹にゴヴァンは静かに座っている。
 よく見るとゴヴァンも顔色悪く、心ここに在らずの表情である事に誰も気づいていない。

「・・・慣れてきたようだ。」

 どうにか余裕が出来たシモン・ヤティムが呟くと、イオリは安心したように微笑んだ。

「良かったです。
 それじゃ、もう少しスピードを上げられますね。」

「何っ?
 ちょっと・・・待って。」

 シモン・ヤティムが助けを求めようとした時だった。

「アウラ。ナギ。お願い。」

「了解。」

「ヒヒンっ!!」

 イオリが頼むとナギが親指を上げて御者席にいたヒューゴの隣に座った。

「いくよ。」

 ナギが声をかけると、双子とニナは大はしゃぎだ。

 次の瞬間、アウラのスピードに合わせてナギが馬車を瞬間移動させ始めた。

「ちょっと待てと言っておるだろうぉぉぉぉぉ!!」

 シモン・ヤティムの声が草原に再び響いた。


「私は大丈夫です。大丈夫です。大丈夫です。」

 人知れず、何かを悟ったゴヴァンが祈っている事など誰も気づいてはいない。
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