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旅路〜ダグスク〜

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 エナの家はイオリにとって落ち着く香りがする。
 木造造りのせいか、乾物が所狭しと置かれているせいか、故郷の面影を思わせるのだ。
 
 キッチンから出汁の芳しい香りがする。

「良い匂いー。」

 ウキウキ顔のパティの反応にエナが微笑んだ。

「そうかい。
 今、大根を出汁で煮ているんだよ。」

 鍋の蓋を開けて見せるエナの肩越しにイオリは覗いた。

「良いですね。 
 シンプルが一番味を感じますから。」

「・・・でもね。
 もっと違う何かを作りたいんだよ。」

「出汁を感じて大根を楽しむ何か他の物ですか?」

「そうさ。
 お前さんなら、どうするね?」

「そうですね・・・。
 せっかく、港町ですから魚介類を入れたらどうですか?」

 イオリの提案にエナは苦虫をつぶした顔をした。

「やってみたよ。
 屋台で出そうと思って考え始めたんだが、それじゃ味噌汁で良いさね。」

「成程ね・・・。
 屋台でも食べられて、出汁や大根も楽しめて味噌汁じゃないものか。
 1つ思いつきました。
 お任せ頂けますか?」

 イオリの提案にエナは満足そうに頷いた。

「お前さんなら良いよ。
 必要な物はディスに言いな。」

 キッチンを覗いていたディスが訳もわからずエナの話に頷いていた。

「それなら、お願いしましょう。」

 ディスはイオリが伝える物を慌ててメモを始めた。
 余りの量にエナも驚いている。

「スコルも手伝うかい?」

「勿論!」

「魚を捌くので裏手をお借りします。
 火をこしをお願い出来ますか?」

 ぼーっとしていたテンにエナの檄が飛ぶ。

「ほら、さっさとおしよ。
 イオリが帰ってきたんだ。
 静かにお茶を・・・なんて考えてんじゃないよ!」

「おぉう。
 任せろ。」

 慌てて外に出たテンをヒューゴが巻き込まれまいと手伝いに行った。

「パティ。
 魚を捌くけど見るかい?」

「・・・お魚を捌くのって魔獣と違うの?
 見るっ!!」

 足をバタつかせて喜ぶパティにイオリは苦笑した。

「それじゃ、僕とニナはグレータさんを手伝ってるね。」

「えっ!?私もお手伝いを・・・えっ?良いのかしら?」

 エプロン姿のグレータは戸惑いながらもナギに背中を押されて出て行った。

「・・・で?
 何を作るのさ。」

「色々な具材をいれて出汁を楽しむのなら“おでん”が一番ですよ。
 カツオの出汁をベースに色々な具材の旨みが合わさって美味しいです。
 この街も魚の出汁を使った料理はあるけど“おでん”は一味違いますよ。」

「ほう。
 面白そうだね。
 私も手伝うよ。」

「お願いします。」

 汗をかき「ヒーヒー。」言いながら木箱に大量の魚介類を持ってきたディスにエナは冷静に裏まで持っていけと指示をした。
 イオリは恐縮しながらも魚の選別を始めた。

 この家にはイオリだけではない。
 魚捌きの名人達が揃っている。
 エナとテスも包丁を持ち、素早く魚を捌いていく。
 その横でパティとスコルはディスにゆっくりと手ほどきを得ていた。
 
「こっちの魚はミンチに、蛸は湯揚げして下さい。
 海老は食感を残して下さいね。
 そうだ、油の用意もしなきゃ。」

 怒涛な時間を従魔達は我関せずと眠っていた。
 しかし、暫くして良い匂いがしてくるとゼンの尻尾がパタンパタンとゆれ、アウラの耳がピクピク動き、ソルは嘴をパクパクし始めた。

 ヒョコッと覗いたナギとニナはニッコリと笑うと再びグレータの手を取り外に出て行くのだった。
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