続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ダグスク〜

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 思いがけない喜びに触れた朝、イオリは庭から海を見つめていた。

「今日の海は一段と綺麗でしょう。」

 振り向くとオーウェンがニッコリと立っていた。

「また離れの御屋敷を貸していただいて有難うございます。」

 先先代夫婦の老後の屋敷として建てられた白亜の屋敷を見上げれば、子供達の笑い声とヒューゴが追いかける声がする。
 アウラとゼンは寄り添って昼寝をし、ゼンの頭にはソルが小さく丸まって寝息を立てていた。

「また来ると言ってくださいましたから、楽しみにしていたんです。
 海を渡る使節団の船に乗るとか・・・国を出るんですね。」

「はい。
 各地で“エルフの里の戦士”の目撃情報、ダンジョンの消滅という話を聞いたんです。
 ダークエルフの思惑は分りません。
 でもリュオン様が心配しているので、やれる事はやってみようと思います。」

 イオリがここまでリュオンとの繋がりを話すのは珍しい。
 テオルドやヴァルトと同じくらいオーウェンの事を信頼しているのだ。

「宰相グレン・ターナー侯爵からの手紙で“火の国グランヌス”に因縁が出来たと聞きました。
 何やら問題が起こっているようですね。」

 イオリが頷いたのを見てオーウェンは話し始めた。

「3年前、王城で初代様の手記を読んでからダグスクに残る文献や我が家に残る書簡を調べているんです。
 教会にも足を運び記録は読み漁りました。
 それでもジュウゾウの名を見つけるのは難しい。
 どれだけ慎ましやかな人物だったのかと、感心しています。」

 3年前、国王アルフレッドが保管していた初代国王マテオ・アースガイルが残した記録の中に実際に存在した“神の愛し子”と呼ばれる男、十蔵との出会いが書かれていた手記を読んだ。
 その時、オーウェンも一緒に初代の記憶を追憶したのだ。

「とある記録にジュウゾウはマテオと別れて、この地の領主にと望まれながら固辞し家族と細々と天寿を全うしたと書かれていました。
 その間、後にダグスク騎士団となる自警団の強化に努めたそうです。
 生きている間、無敗の男だったと記録されています。
 その無敗の男に挑む輩がいた。
 他の領地からジュウゾウの強さを聞いた腕利き達が挑みに来ていたそうです。
 その輩達は敗北を知り、ジュウゾウの元に残り教えを乞いたとか・・・。
 それをジュウゾウは《強さは何の為に必要なのだ?教えで強くなるのではなく。己の道は己で作れ》と彼らを修行の旅に送り出したとか。
 その多くは海を渡り、大陸を旅し己を磨いたそうです。
 ・・・その、終着地が“火の国グランヌス”です。」

 イオリはオーウェンの話を静かに聞いた。

「ジュウゾウに挑み、敗北し、彼に憧れ、強さを求めた者達の多くが“グランヌス”に腰を落ち着け国を作り歴史が繋がれてきました。
 時をかけ、様々な生き方に変化しているとはいえ、彼の国は強き者を愛する国です。
 ただの人間を簡単に受け入れるとは考えづらいのです。
 ましてや魅了の力に屈服するとは・・・。」

 オーウェンの苦渋の顔にイオリは微笑んだ。

「心配をおかけします。
 元々、旅はするつもりだったんです。
 世界を見たい、子供達に見せたい。
 その先に問題があれば対処するだけです。
 ダメなら逃げちゃいますよ。」

 ケラケラと笑うイオリにオーウェンは力が抜けたようだった。

「そうですか・・・そうですね。
 イオリさんなら、そうだろうと思っていました。
 どうぞ、お気をつけてお戻りください。」

 2人は何処までも続く海を見つめた。
 かつての英雄が愛した海は何処までも美しかった。 
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