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旅路〜王都〜

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 次の日、国王陛下より貴族だけでなく市民に向けて以下の事が告示された。

_________

 オンリール伯爵領の多岐にわたる問題において、領主アマンド・オンリールの引退を勧告した。
 今後は孫であるクロワ・オンリールが領主の座を引き継ぎ、当面の間の運営は国が助力する旨となった。
 アマンド・オンリールに付き従い領の運営に携わってきた甥コンタン・オンリールは自身にも責任があると訴え、後継の座は辞退した。
 以後、若いオランを支えるに徹する事になる。
 
 国王として、後継に悩む領の負担を考える事案として重く捉える。
 後々の世に続く大きな問題として国を挙げて取り組む事とする。
_________

 これ以上の混乱を招く必要はないと、あえて本当の事を話さなかったアルフレッドの考えをイオリを含む関係者達は理解した。

 貴族の後継問題は当人達の問題だけではない。
 それに巻き込まれる使用人に市民達がいるのだ。
 一貴族家の問題では済まさない。

 国王アルフレッドの考えは後継問題を抱え込む貴族達の背筋を伸ばさせる事になる。

 この年から王城には後継に対して相談事が増えたと宰相グレンは大きな溜息を吐いたとか。



カツカツカツっ

 王城の地下牢に響いた足音にコンタンはピクリともしなかった。

 未だ自分が貴族の息子ではなく使用人の子であった事実を認めないコンタンは、外野の音も煩わしいと殻に篭った。
 疲弊していた体を押して面会に来たアマンドに対しても、最早興味がないとばかりに視線すら合わせようとしない。

 そんなコンタンの元に1人分の足音が止まった。

「コンタン・オンリール。
 顔を上げなさい。」

 宰相グレンは静かに、それでいて有無も言わせぬように命令した。

 目だけで見上げたコンタンは初めて、もう1人いる事に気づく。
 それも、あの部屋にいた真っ黒な若者だった。
 側にいた真っ白な狼が無表情に見つめている。

 その若者の青い目に見つめられ、コンタンは居心地悪そうに身じろぎした。
 
「おや、珍しい。
 最近は無反応と聞きましたがね。
 さぁ、イオリ。
 聞きたい事があるのでしょう?
 遠慮は要りませんよ。」

「それじゃ、失礼します。」

 イオリはしゃがみ込みコンタンの顔を覗き込むように見つめた。

「あの腕輪は、どこで手に入れたんですか?
 あれはダンジョンで手に入る宝ではありません。
 人が作り上げた異物です。
 呪いは人が管理できる代物ではありませんよ。」

 コンタンは答える気がないとばかりに顔を背けた。

「お前には、全てが見えるのだろう?
 私に聞く必要などないではないか。」

 鼻で笑うように呟いたコンタンにイオリは首を横に振った。

「この目は、そこまで便利なモノではありませんよ。
 全てが分かるなら、本当に神だ。」

 押し黙ったコンタンは囁くように呟いた。

「・・・がいるらしい。」

「はい?」

 イオリは顔を顰めて耳を澄まし、もう一度聞いた。

「火の国にがいるらしい。
 その方が作ったと聞いている。
 流浪の商人から買った。
 フンッ。
 お前だけが特別ではないという事だ。」

「まさかっ!」

 コンタンの話にグレンは叫び、心配そうにイオリの様子を伺った。

 当のイオリは目を見開き驚きながらも、注意深く考え込んでいた。
 暫くすると、スクッと立ち上がり踵を返した。

「コンタンさん。
 ありがとうございます。
 やっぱり、俺は海を渡る必要があるようです。」

 足早に去るイオリの後をグレンが慌ててついて行くのを、コンタンは気力のない瞳で見送った。

ドタドタドタっ

 「そうだ!コンタンさん!」

 イオリは走って戻ると牢にしがみつき驚くコンタンに笑顔を向けた。

「アマンドさんからの伝言です。
 コンタンさんの身柄をオンリールで引き受けるそうです。
 国が決めた刑期を終えたら戻ってくるようにって。
 それじゃ!」

 再び走り去るイオリにコンタンは困惑して叫んだ。

「何故だ!!
 私は・・・私は、オンリールにとって罪人だ!
 いや、国にとっても大罪人だぞ!」

 久しぶりに大声を張り上げた事で喉がヒリヒリする。
 それでも構わずにコンタンは叫び続けた。

「答えろ!
 答えてくれ・・・何故・・・私を・・・私なんかを・・・。」

 膝から崩れ落ちるように鉄格子に縋ったコンタンに優しい声がかかった。

「お前がオンリールの子だからだ。」

 ハッとして顔を上げたコンタンの目の前には哀れみの表情を隠さないアマンドの姿があった。

「どんなに過ちを犯そうとも、お前はオンリールの子だ。」

 コンタンは信じられないと目を見開き、乾いた笑い声を出した。

「貴方の息子と孫を殺したのに?
 ははははは・・・・。
 やはり、貴方は愚かだ。
 お人好しは私みたいなクズに再び騙されますよ。」

「長生きをしよう。
 帰っておいで。
 コンタン。
 その時は紅茶でも飲んで、文句の1つや2つは聞いておくれ。」

「・・・お・・叔父上。
 叔父上・・・・。」
  
 慈愛の顔のアマンドにコンタンは堪えられず涙を流した。
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