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旅路〜王都〜
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ドッゾが働いていたのはオンリールにあった小さな社交場だった。
この世界の社交場とは女性がもてなす酒場・・・現世で言うとホステスがいるクラブのような所だろうか。
娯楽の少ない地方の領地にとって、疑似恋愛を楽しめる社交場は庶民だけでなく貴族にも人気だった。
体を売るわけではないから、身一つで成り上がろうとする女達の出世の場としても社交場は賑わいを見せた。
そこにジャンヌという娘がいた。
流行病で親兄弟を亡くした娘が生きていくのに選んだのが社交場だった。
震える体を抱きしめて社交場の扉を開いたジャンヌも見よう見まねで接客をし、純粋無垢でほのぼのとした性格から直ぐに客がつき始めていった。
ドッゾにとって、綿毛の様に笑うジャンヌは一目で可弱く守ってやりたいと願う存在だった。
ジャンヌの願いは叶えてやる。それが、ドッゾにとっての想いだった。
しかし、その可憐な少女も年月が経てば虚構の世界に慣れ親しみ純粋無垢とは無縁の手練れとなっていった。
それでもドッゾはジャンヌが求めれば願いを叶えた。
たとえそれが、他の男の元に届ける手紙だとしても・・・朝帰りの迎えだとしても・・・。
そして、ジャンヌは出会った。
その時代、オンリールの街で一番に華やか男・・・フォダン・オンリールに。
フォダンがオンリール伯爵の嫡男だと知れば、どの女もこぞって争った。
正妻など望みはしない。
皆、妾でもいいから未来の領主に囲ってもらいたいと願ったのだ。
ジャンヌもその1人だった。
女達との争いに勝ったジャンヌはフォダンの恋人になった。
彼女にとって一番幸せな時だったかもしれない。
その幸福はいつまでも続かない。
当主によってフォダンは立場を追われ、オンリールの片隅に追いやられたのである。
恋人だったジャンヌは彼を追いかけた。
この時は、まだ廃嫡などの話は出ていなかった為に領民達はお灸を据えられ戻ってくると思っていた。
社交場の主人も金づると稼ぐ娘を店に繋いでおく為にドッゾについていくように命じた。
当初、フォダンは片隅の生活を楽しんでいた。
父親からの厳しい目を避けられ、愛妾との飲んで歌えの生活は彼にとって願ってもない事だったろう。
それも金が底をつき始め、父親からの援助が絶たれると全てが変わっていった。
屋敷を出て、近くの街まで遊びに出ては享楽三昧。
金がなくなれば、詐欺まがいな事や盗賊まがいな事まで手を出した。
屋敷に帰ってこないフォダンをジャンヌが咎めれば、罵倒し始め、寄り付かなくなった。
そんなジャンヌは寂しさを補うためにドッゾを利用した。
「子供が出来れば、あの人は帰ってくる。
あの人は私の物。
だから子供が欲しいの。」
ーーードッゾはジャンヌの願いを叶えた。
寄り付かなくなってから、暫くしてジャンヌの妊娠が発覚した。
それを知ってもフォダンは心を入れ替えなかった。
むしろ、『ジャンヌと腹の子は邪魔だ、屋敷はやるから面倒かけるな』と言い放った。
悲しみに暮れたジャンヌであったが、ドッゾは心底喜んだ。
妊娠したのは自分の子であり、ドッゾにとって邪魔なフォダンがいなくなる。
ジャンヌは望まぬであろうが、彼女を支えるのは自分であり、何がなんでも守ってみせる。
ドッゾの偏愛に気づいてか気づかぬのか、ジャンヌは1人の男の子を産み落とした。
それがコンタンだった。
「貴方は本当は伯爵家の人間なのよ。
将来は伯爵になるのよ。」
寝物語のように囁くジャンヌの言葉をコンタンは信じた。
貴族の子としての自我が生まれたコンタンをドッゾは執事として支えた。
それ以上を望まなかった。
時折、心が壊れていったジャンヌにコンタンが叩かれているのは知っていた。
それはジャンヌが望んだ事。
ドッゾは止める事はしなかった。
その代わりドッゾはコンタンに約束をした。
「コンタン様はいつしか伯爵になられるのです。
ドッゾはそのお手伝いを致しましょう。」
その約束はフォダンが死に、ジャンヌが死んでも守られた。
ある日の事だった。
「コンタン様。
オンリール伯爵がお迎えになられるとの事です。
これでコンタン様は伯爵家の人間になられますな。」
一枚の手紙を見てドッゾは歓喜した。
数日後コンタンがオンリール伯爵を迎えた時、確かにオンリール伯爵は眉間に皺を寄せた。
それが何だったのか、コンタンは知らない。
コンタンはオンリール伯爵家の子供である。
アマンド・オンリールは家族にそう伝えた。
オンリール家には子供がいた。
ジレ・オンリール。
表情乏しいコンタンとは反対で明快で活発な男の子だった。
ドッゾは思った。
『ジレがいる限り、コンタン様が伯爵になるのは難しい。
何とかしなければならない。
でも、今じゃない。まだ、早い。
・・・大丈夫だよ。ジャンヌ。
君の望みは私が叶えてあげるからね。」
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ドッゾが働いていたのはオンリールにあった小さな社交場だった。
この世界の社交場とは女性がもてなす酒場・・・現世で言うとホステスがいるクラブのような所だろうか。
娯楽の少ない地方の領地にとって、疑似恋愛を楽しめる社交場は庶民だけでなく貴族にも人気だった。
体を売るわけではないから、身一つで成り上がろうとする女達の出世の場としても社交場は賑わいを見せた。
そこにジャンヌという娘がいた。
流行病で親兄弟を亡くした娘が生きていくのに選んだのが社交場だった。
震える体を抱きしめて社交場の扉を開いたジャンヌも見よう見まねで接客をし、純粋無垢でほのぼのとした性格から直ぐに客がつき始めていった。
ドッゾにとって、綿毛の様に笑うジャンヌは一目で可弱く守ってやりたいと願う存在だった。
ジャンヌの願いは叶えてやる。それが、ドッゾにとっての想いだった。
しかし、その可憐な少女も年月が経てば虚構の世界に慣れ親しみ純粋無垢とは無縁の手練れとなっていった。
それでもドッゾはジャンヌが求めれば願いを叶えた。
たとえそれが、他の男の元に届ける手紙だとしても・・・朝帰りの迎えだとしても・・・。
そして、ジャンヌは出会った。
その時代、オンリールの街で一番に華やか男・・・フォダン・オンリールに。
フォダンがオンリール伯爵の嫡男だと知れば、どの女もこぞって争った。
正妻など望みはしない。
皆、妾でもいいから未来の領主に囲ってもらいたいと願ったのだ。
ジャンヌもその1人だった。
女達との争いに勝ったジャンヌはフォダンの恋人になった。
彼女にとって一番幸せな時だったかもしれない。
その幸福はいつまでも続かない。
当主によってフォダンは立場を追われ、オンリールの片隅に追いやられたのである。
恋人だったジャンヌは彼を追いかけた。
この時は、まだ廃嫡などの話は出ていなかった為に領民達はお灸を据えられ戻ってくると思っていた。
社交場の主人も金づると稼ぐ娘を店に繋いでおく為にドッゾについていくように命じた。
当初、フォダンは片隅の生活を楽しんでいた。
父親からの厳しい目を避けられ、愛妾との飲んで歌えの生活は彼にとって願ってもない事だったろう。
それも金が底をつき始め、父親からの援助が絶たれると全てが変わっていった。
屋敷を出て、近くの街まで遊びに出ては享楽三昧。
金がなくなれば、詐欺まがいな事や盗賊まがいな事まで手を出した。
屋敷に帰ってこないフォダンをジャンヌが咎めれば、罵倒し始め、寄り付かなくなった。
そんなジャンヌは寂しさを補うためにドッゾを利用した。
「子供が出来れば、あの人は帰ってくる。
あの人は私の物。
だから子供が欲しいの。」
ーーードッゾはジャンヌの願いを叶えた。
寄り付かなくなってから、暫くしてジャンヌの妊娠が発覚した。
それを知ってもフォダンは心を入れ替えなかった。
むしろ、『ジャンヌと腹の子は邪魔だ、屋敷はやるから面倒かけるな』と言い放った。
悲しみに暮れたジャンヌであったが、ドッゾは心底喜んだ。
妊娠したのは自分の子であり、ドッゾにとって邪魔なフォダンがいなくなる。
ジャンヌは望まぬであろうが、彼女を支えるのは自分であり、何がなんでも守ってみせる。
ドッゾの偏愛に気づいてか気づかぬのか、ジャンヌは1人の男の子を産み落とした。
それがコンタンだった。
「貴方は本当は伯爵家の人間なのよ。
将来は伯爵になるのよ。」
寝物語のように囁くジャンヌの言葉をコンタンは信じた。
貴族の子としての自我が生まれたコンタンをドッゾは執事として支えた。
それ以上を望まなかった。
時折、心が壊れていったジャンヌにコンタンが叩かれているのは知っていた。
それはジャンヌが望んだ事。
ドッゾは止める事はしなかった。
その代わりドッゾはコンタンに約束をした。
「コンタン様はいつしか伯爵になられるのです。
ドッゾはそのお手伝いを致しましょう。」
その約束はフォダンが死に、ジャンヌが死んでも守られた。
ある日の事だった。
「コンタン様。
オンリール伯爵がお迎えになられるとの事です。
これでコンタン様は伯爵家の人間になられますな。」
一枚の手紙を見てドッゾは歓喜した。
数日後コンタンがオンリール伯爵を迎えた時、確かにオンリール伯爵は眉間に皺を寄せた。
それが何だったのか、コンタンは知らない。
コンタンはオンリール伯爵家の子供である。
アマンド・オンリールは家族にそう伝えた。
オンリール家には子供がいた。
ジレ・オンリール。
表情乏しいコンタンとは反対で明快で活発な男の子だった。
ドッゾは思った。
『ジレがいる限り、コンタン様が伯爵になるのは難しい。
何とかしなければならない。
でも、今じゃない。まだ、早い。
・・・大丈夫だよ。ジャンヌ。
君の望みは私が叶えてあげるからね。」
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