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旅路〜王都〜

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 今や体を小さくさせて頭を下げる老貴族に憐れみの目が集まっていた。
 それでも謁見は終わりはしない。

「何故、病であると申し出なかったのです?
 そうであれば代替わりや補佐の話も出来たでしょう?」

 宰相グレンの言葉に貴族達は再び興味深そうにオンリール伯爵を見つめた。

「オンリールの名を継ぐ者が未だ幼かったのでございます。」

 小さく呟くオンリール伯爵に貴族達は数年前の悲劇を思い出していた。

 アマンド・オンリールの嫡男であったジレ・オンリールは、とある子爵家の娘と結婚し子宝に恵まれた。
 5男4女と賑やかしい家族であり、アマンドにとっても可愛い孫に囲まれた生活は幸せだった。

 数年前の菜の花が美しい季節。
 
 アマンドの元に火球の報せが送られてきた。

 ジレの死だった。

 家族で湖での静養を楽しんでいたジレがボート事故により溺死したというのだ。
 一緒に乗っていた次男と3女も同じく幼い人生を終えてしまった。

 アマンドは失意に暮れたが貴族の当主として立ち止まるわけにはいかなかった。
 ジレの長男を後継にと決め、家族総出で立て直しを図った。
 
 オンリールの地獄はそれだけで終わらなかった。
 3男、4男と馬車の事故や病が元で成人も待たずにこの世を去った。
 結婚していく娘達を送り出すも、ついに後継であった長男までもが魔獣討伐の際に負った深傷が元で身罷った。

 彼らの母であるジレの妻は息子達との別れが続いた事に怯え、生き残った5男を抱え実家に引き篭もってしまった。


 貴族達はオンリール伯爵家は呪われている恐れたが、温厚なアマンドの手前、表沙汰には揶揄する者はいなかった。

「オンリール伯爵家の悲しい事件は理解しています。
 でしたら、余計に後継を決め保護するべきでしょう?」

 宰相グレンの言葉にアマンドは頷いた。

「ジレ・・・息子の5男であるクロワは未だ成人してはおりません。
 ですので、この度、兄の子である甥のコンタンにオンリール伯爵位を預けようと決心いたしました。
 国王陛下のお許しがありますれば今すぐにでも、私は隠居する所存でございます。」

「叔父上!」

 コンタンは驚いたようにアマンドにしがみついた。

 貴族達は一連の報告に致し方なしとの見解を見せ、国王アルフレッドの采配を見守った。

「アマンド・オンリール伯爵。
 其方の願い。
 あい、分かった。
 爵位の交代は簡単なものではない。
 今回の騒動に巻き込まれた領の理解も必要だろう。
 このまま残り、処置を待て。」

「承知いたしました。」

 頭を下げるアマンドとコンタンは下がる事なく謁見の間に留まった。

「今日の謁見は終わります。
 皆様、速やかに退場願います。」

 国王や王子達が立ち去ると貴族は後ろ髪が引かれる思いでオンリール家の2人を置いて謁見の間を後にした。

「さぁ。
 御2人は、こちらに」

 宰相グレンの指図に騎士が2人を誘って行く。
 その後ろ姿にイオリは厳しい目を向けていた。

「どうなると思う?」

 ヒューゴは普段とは違うイオリの顔を見て、険しい顔をしている。

「どちらに転んでも、良い結果にはならないでしょうね。
 ・・・人は時に残酷な事を平気でする。
 神は、それでも我々を愛してくれている。
 ・・・俺は、真実を正しい場所に戻すだけです。」

「付き合おう。」

 ヒューゴはお前だけが背負う事はないと、悲しそうに笑った。
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