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旅路〜王都〜
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男は渡された書簡を見つめニヤリとしていた。
「オンリール伯爵の同行を認められた。
登城は明日の朝1番だ。」
「それは、好うございました。
ここまでは、旦那様の計画通りでございますね。」
「私が失敗する事はない。
最早、伯爵位をこの手に掴むのは時間の問題だ。」
「それでは、祝杯の準備をいたしましょう。」
オンリール伯爵のタウンハウス。
王都に出てきた時に伯爵が滞在する屋敷は以前の和やかな雰囲気はなく、古参の使用人が次第に辞していく中、新たな使用人達が屋敷を掌握していた。
「それで、伯爵はどうしている?」
「現在は夜間で御座いますので、お眠りになられました。」
「・・・分かった。
王都のギルド本部の動きはどうだ?」
オンリールの街の商人・冒険者共に王都ギルド本部から監査が入ると聞いていた。
その前に懐柔をしておかなければならない。
「両ギルドマスターの守りは堅く、時間を要します。
その代わり、派遣された監査役の買収を進めています。
オンリールの街での接待を受け入れているとか・・・。
まずは、今を乗り切る事を最優先と考えます。」
「そうだな。
その方向で進めとけ。
もう少しだ。
明日には私の正当性を国王陛下にお認め頂ければ、我れらの悲願が叶うのだ。」
「はい。
抜かりは御座いません。
それでは、私は失礼致します。」
男は1人になると、ワインが入ったグラスを傾け瞳を閉じた。
_______
ーーーーーお前さえいなければ!
パシンッ!
小さな少年が頬を叩かれている。
男は・・・幼少期、豪華な屋敷の一室で真っ暗な中、星を見上げて時を過ごしていた。
自分を愛さぬ母は父の帰ってこない寂しさを酒に逃げた。
『私は伯爵の跡取りと恋に落ちたの。
今頃、伯爵夫人になるはずだった。
お前もいつかは伯爵になるのよ。』
母は酔っ払うと必ず、こう囁いた。
『母様。父様はどうして帰ってこないの?』
少年が父の話を聞くと、必ず頬を叩かれた。
『お父様は仕事が忙しいの。
子供のお前が気にする事はないのよ。』
少年はいつしか、自分から父の話をするのをやめた。
『お前さえいなければ、ご主人様はお帰りになるのに。』
『お前は伯爵になるのよ。』
そう言った母は酒の影響で体を壊し、男が12歳になる前にあっけなく死んだ。
屋敷の女主人が死すると、多くの使用人が逃げ出した。
退職金代わりにと装飾品を盗み出すのも当たり前だった。
『・・・父上は母上が死んでも来てくれないの?』
少年が呟くと執事が膝をつき頭を下げた。
『伯爵家に連絡は入れておりますが、未だ返信は御座いません。』
『・・・僕は。
いらない子なんだね。』
『坊っちゃま。
奥様の言葉を思い出して下さい。
坊っちゃまは伯爵になるお方です。』
ーーーーーお前は伯爵になるのよ。
呪いの様に残した母の言葉が少年の体にのし掛かる。
伯爵家からの迎えが来たのは、それから2週間経った時だった。
少年の父の弟という男が馬車から出てきた。
男はアマンド・オンリール伯爵と名乗った。
少年を見たオンリール伯爵はハッとすると眉を下げて少年の頭を撫でた。
『もう心配はいらない。
君の養育は私に任せて欲しい。
寂しい思いをさせてすまなかったね。
我が家にも君と同じ位の息子がいるんだ。
仲良くしてくれると嬉しいよ。』
少年はオンリール伯爵を見上げた。
《・・・伯爵なのは父上なのに。
本当は僕が伯爵になるのに・・・。》
それでも少年はニッコリ微笑んだ。
『はい。・・・叔父上。
楽しみです。』
そうして少年
コンタン・オンリールは誕生した。
_______
「・・・フゥ。
久々に昔の事を思い出したな。」
コンタンは部屋を出ると隣で眠る叔父の部屋を開けた。
「・・・叔父上。
貴方には感謝しています。
私に力を与えてくれた。
しかし、貴方の爵位は仮そめだ。
本来在るべき場所に戻さなければならない。
もう暫くの辛抱です。
苦しまずに眠らせて差し上げますよ。
それが、せめてもの花向けです。」
コンタンは細い息を繰り返す叔父を見下ろすと部屋を後にした。
「オンリール伯爵の同行を認められた。
登城は明日の朝1番だ。」
「それは、好うございました。
ここまでは、旦那様の計画通りでございますね。」
「私が失敗する事はない。
最早、伯爵位をこの手に掴むのは時間の問題だ。」
「それでは、祝杯の準備をいたしましょう。」
オンリール伯爵のタウンハウス。
王都に出てきた時に伯爵が滞在する屋敷は以前の和やかな雰囲気はなく、古参の使用人が次第に辞していく中、新たな使用人達が屋敷を掌握していた。
「それで、伯爵はどうしている?」
「現在は夜間で御座いますので、お眠りになられました。」
「・・・分かった。
王都のギルド本部の動きはどうだ?」
オンリールの街の商人・冒険者共に王都ギルド本部から監査が入ると聞いていた。
その前に懐柔をしておかなければならない。
「両ギルドマスターの守りは堅く、時間を要します。
その代わり、派遣された監査役の買収を進めています。
オンリールの街での接待を受け入れているとか・・・。
まずは、今を乗り切る事を最優先と考えます。」
「そうだな。
その方向で進めとけ。
もう少しだ。
明日には私の正当性を国王陛下にお認め頂ければ、我れらの悲願が叶うのだ。」
「はい。
抜かりは御座いません。
それでは、私は失礼致します。」
男は1人になると、ワインが入ったグラスを傾け瞳を閉じた。
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ーーーーーお前さえいなければ!
パシンッ!
小さな少年が頬を叩かれている。
男は・・・幼少期、豪華な屋敷の一室で真っ暗な中、星を見上げて時を過ごしていた。
自分を愛さぬ母は父の帰ってこない寂しさを酒に逃げた。
『私は伯爵の跡取りと恋に落ちたの。
今頃、伯爵夫人になるはずだった。
お前もいつかは伯爵になるのよ。』
母は酔っ払うと必ず、こう囁いた。
『母様。父様はどうして帰ってこないの?』
少年が父の話を聞くと、必ず頬を叩かれた。
『お父様は仕事が忙しいの。
子供のお前が気にする事はないのよ。』
少年はいつしか、自分から父の話をするのをやめた。
『お前さえいなければ、ご主人様はお帰りになるのに。』
『お前は伯爵になるのよ。』
そう言った母は酒の影響で体を壊し、男が12歳になる前にあっけなく死んだ。
屋敷の女主人が死すると、多くの使用人が逃げ出した。
退職金代わりにと装飾品を盗み出すのも当たり前だった。
『・・・父上は母上が死んでも来てくれないの?』
少年が呟くと執事が膝をつき頭を下げた。
『伯爵家に連絡は入れておりますが、未だ返信は御座いません。』
『・・・僕は。
いらない子なんだね。』
『坊っちゃま。
奥様の言葉を思い出して下さい。
坊っちゃまは伯爵になるお方です。』
ーーーーーお前は伯爵になるのよ。
呪いの様に残した母の言葉が少年の体にのし掛かる。
伯爵家からの迎えが来たのは、それから2週間経った時だった。
少年の父の弟という男が馬車から出てきた。
男はアマンド・オンリール伯爵と名乗った。
少年を見たオンリール伯爵はハッとすると眉を下げて少年の頭を撫でた。
『もう心配はいらない。
君の養育は私に任せて欲しい。
寂しい思いをさせてすまなかったね。
我が家にも君と同じ位の息子がいるんだ。
仲良くしてくれると嬉しいよ。』
少年はオンリール伯爵を見上げた。
《・・・伯爵なのは父上なのに。
本当は僕が伯爵になるのに・・・。》
それでも少年はニッコリ微笑んだ。
『はい。・・・叔父上。
楽しみです。』
そうして少年
コンタン・オンリールは誕生した。
_______
「・・・フゥ。
久々に昔の事を思い出したな。」
コンタンは部屋を出ると隣で眠る叔父の部屋を開けた。
「・・・叔父上。
貴方には感謝しています。
私に力を与えてくれた。
しかし、貴方の爵位は仮そめだ。
本来在るべき場所に戻さなければならない。
もう暫くの辛抱です。
苦しまずに眠らせて差し上げますよ。
それが、せめてもの花向けです。」
コンタンは細い息を繰り返す叔父を見下ろすと部屋を後にした。
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