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旅路〜王都〜

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 王都いや、国一番の豪商を問われれば誰しもが同じ答えをするだろう。

”グラトニー商会”

 多くの貴族から信頼され、加えて貴族と同じようにもてなす事からも、一般市民からも愛されている。
 この商会は歴史あるアースガイルにおいて欠かす事ができはしまい。
 
 貴族からの無理難題を叶える裏腹に、権力や理不尽とは頑として戦う。
 歴代の当主達は貴族からも一目を置かれていた。
 先代アーベル・グラトニーがとある侯爵の違法な奴隷事業を明らかにし、御家お取り潰しに追い込んだ事は有名な話である。
 現当主ロス・グラトニーも一族の当主として先代に負けず劣らず、豪腕を発揮していた。



ーーーーイオリが冒険者ギルドに足を踏み入れていた頃。

「この依頼は受理。こっちは駄目だ。」

「はい。」

「ダグスクの塩は安定しているな。
 他領の商会の横槍は排除だ。」

「承知いたしました。」

「イルツクに商隊がくるようになったそうだ。
 また、ホワイトキャビンの事案が出てきたそうだ。
 リロイ。
 泣き出す前にバートにプレッシャーを与えてやれ。」

「フフフ。分かりました。
 会頭。
 こちらの報告書はどうしましょう。」

「・・・オンリールか。
 もう暫くの辛抱だ。
 彼方の子らも大変だろうが、そろそろ決着がつくだろう。」

 ロスはひっきりなしに来る従業員に指示を出すと自身は書類の確認や交渉の材料を読み漁っていた。
 側には秘書であり従兄弟であるリロイが忙しそうに立ち回っている。
 
 もっぱらの問題はオンリールの街の商業ギルドからの妨害だった。

 グラトニー商会のオンリール支部では若きグラトニーが踏ん張っていた。
 全ての商売を掌握しようとする商業ギルドの脅しを突っぱねている為に、他の商会との仕事を止められている。
 オンリールの商業ギルドの要求にはポーレットの砂糖やダグスクの塩が含まれていた。
 しかし、それはホワイトキャビンの枠内である為にグラトニーとて安易に手を出すわけにはいかない。
 それでもグラトニーの支援をうけている以上、切っても切れない間柄である事も間違いない。

 グラトニーにとってホワイトキャビンは商売としての切り札ではない。
 公共事業と割り切った商売は、国を憂う豪商一族の想いの形でもあった。
 
「冒険者ギルド本部もオンリールに向けて行動を起こしたと聞く。
 我ら商売人も黙ってはいないだろう。
 一つの領の商業ギルドの口出しが逸脱している今、王城とて黙ってはいまい。
 現に、領主であるオンリール伯爵を呼び出した訳だ。
 何が起こってもおかしくはないだろう。
 準備だけはさせておけ。
 ・・・いや、直接に誰がやってくれ。
 手紙じゃ、いつ揉み消されるか分かったもんじゃない。」

「承知しました。
 近くに向かう予定の商隊に伝えておきましょう。」

 リロイは部屋を出ようと扉に向かった。
 その時。

トントントンっ。

 扉を叩く音がした為にリロイが扉を開くとニッコリ顔のアクセルが立っていた。

「どうした?アクセル。
 受付で何かあったか?」

 リロイが問いかけるとアクセルは静かに頷いた。

 ダグスクのグラトニー支部を任されているロスの弟であるカイの長男アクセルは現在、受付の統括を任されていた。
 頭の回転が速く、気配りができるアクセルにはロスも期待して多くの仕事を任せている。
 修行中であったアクセルも今年の終わりにはダグスクに戻る予定になっている。

「ご報告が。」

 アクセルは小さなメモをリロイに渡すと嬉しそうに微笑んだ。

 受け取ったリロイにしてもメモに目を通すと、笑みを隠そうとしなかった。

「分かった。
 いつ起こしになるか分からない。
 お迎えの準備を進めておきなさい。」

「はい。失礼します。」

 会頭室を辞していくアクセルを見送るとリロイは小さなメモをロスに差し出した。

「これはこれは・・・。
 なるほど、楽しみだ。」

 滅多に見せない満面の笑みを浮かべてロスはメモに目を落とした。

『イオリ様御一行が王都に到着。
 現在、冒険者ギルドに滞在中。』

「リロイ。
 父さんにも伝えてやってくれ。
 退屈だと嘆いていたからな。」

 2人は顔を見合わせ微笑んだ。

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