続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜イルツク〜

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 ギロック伯爵邸での話し合いは、その後も続いた。
 ホワイトキャビンのポーレットにおける働きを教えれば、アナスタシアもイルツクにも是非、図書館をと意気込んだ。
 イオリはオルガ夫人に相談する事を助言した。

 アンティティラにいるグラトニー商会のアンナへの連絡を渋っていたロビンであったが、覚悟をしたのかイオリに追加の質問をしてはメモをしていた。

 ギロック伯爵邸を出た頃には陽も傾きかけていた。
 馬車を用意すると言われたが、イオリはゼンと共に歩くと断りを入れた。

『結局、夜になるね。』

「みんなに悪い事したな。
 出発を楽しみにしていたのに。
 用事も押し付けちゃったしね。」

『ダンジョンの魔物の部位はいくらで売れたかな?』

「どうだろう。
 下層の魔獣でも冒険者が食べていけるって言ってたから、それなりじゃないかな?」

 イオリは自分に代わって、買い物や冒険者ギルドで魔獣の買取を請け負ってくれたヒューゴや子供達を思った。
 申し訳なさそうな顔をしたイオリにヒューゴの「なんでも1人で抱えるな!」の激が飛んだのだ。

『みんなに任せれば大丈夫だよ。』

「そうだね。」

 久しぶりにイオリを独り占めしているゼンはご機嫌だ。
 歩きながらもイオリに擦り付いては甘えている。

 広場の大ベルの前に来ると、今だに人が祈りを捧げていた。

 鳴らないベルが鳴った・・・。

 恐怖に包まれていた街が解放されたのだと人々は噂し合った。

「良い街だったね。」

『うん。 
 ダンジョン楽しかった。』

 イオリはゼンと顔を見合わせ微笑むと“蓮の傘”に向かった。



 すでに明かりが灯っている“蓮の傘”から賑やかな声がした。
 イオリが扉を開くと食堂に大勢が集まっていた。

「イオリ!」

 ナギが1番に気づきイオリに駆け寄り抱きついていた。

「お待たせ。
 待たせてゴメン。」

 ナギの頭を撫でていると、四方から残りの子供達が抱きついてきた。

「お仕事の話終わった?」

「出発はいつ?」

「ニナも抱っこー。」

 イオリはニッコリとしてニナを抱き上げると双子の頭を撫でた。

「仕事終わったよ。
 出発は明日。
 今日は旅の準備してくれてたんでしょう?
 ありがとう。」

 パティに手を引かれテーブルに向かうとヒューゴがニヤリとした。

「結局、出発できなかったな。」

「すみません。
 とりあえず、伝える事は伝えたんで後はイルツクの皆さんにお任せしますよ。
 明日の早朝に出ましょう。」

「分かった。
 魔獣の売却と旅の準備は出来てる。
 いつでも出発出来る状態だ。」

「ありがとうございます。」

 ヒューゴと話していると肩をガッっと掴まれた。

「イオリ!何してたんだ!
 俺らとっくに飲んでたんだよ!?」

 ロジャーが楽しそうに木のジョッキを片手にやってきた。
 お酒臭いのが嫌なのかニナはすぐに洗浄魔法をかける。

「わっ!
 ・・・ニナちゃん。」

 苦笑するロジャーを押し退けるとレンがやってきた。

「あの後さ。
 冒険者ギルドに騎士団長がきてさ。
 報酬とは別にって飲み代くれたんだよ。
 好きに使えって。
 で。アレックス達に声かけに行ったらヒューゴ達と会って。
 今日は出発できそうにないって聞いて誘ったんだ。」

「そうでしたか、ありがとうございます。」

 イオリが見渡すとイオリ達の家族に加えてアレックスとロジャー、レンのパーティーに他のパーティーもいた。
 下層を担当していた冒険者達かもしれない。
 みんなジョッキを片手に楽しそうにしている。

「ほらよ。」

 “蓮の傘”の店主が大きなジョッキをドンッ!とイオリの前に置いた。

「なんですか?これ。」

「心配すんな。ただの果実水だ。
 お前さん、酒はダメだろう?」

 ニヤリとする店主に礼を言うとイオリはジョッキを持った。

「イオリに!」

 アレックスがジョッキを掲げると、ロジャーも大声を上げた。

「イオリに!」

 続けてレン達のパーティーが声を上げた。

「「「「イオリに!」」」」

 無言でジョッキを掲げたヒューゴを見た子供達は嬉しそうに自分のコップを掲げた。
 周りの冒険者はイオリが今回の立役者とは知らない。
 それでも雰囲気でジョッキを掲げている。

 イオリは苦笑すると、恥ずかしそうに呟いた。

「お疲れ様でした。」

「「「「「「お疲れ!!!」」」」」

 大仕事を終えた冒険者達の夜は長そうだ。
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