続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜イルツク〜

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 アナスタシア・ギロック伯爵は目の前に現れた冒険者達を好ましく見つめていた。
 
 “深淵のダンジョン”が存在するイルツクにおいて、領主であるアナスタシアも冒険者に会う事もある。
 彼らが命懸けでダンジョンに潜る姿を見ているアナスタシアは、彼らの生き方を理解していても共有は出来なかった。

 冒険者達は自分の力で・・・技で・・・運で生活費を稼いでいる。
 依頼料が発生する事案においても、あくまでもに生きているのだ。

 比べて、アナスタシアの生き方はイルツクの住人を守る為に身力を注ぐ。
 己の欲望よりも人の為に生きているのだ。
 そんな彼女は聖母の如く住人に愛されている。
 それは先代の当主である父や、この地を守ってきた先祖達に叩き込まれた・・・貴族の誇りだ。
 
 しかし、目の前にいる2組の冒険者達は自分が見てきた冒険者達とは違う気がしていた。

 当然、報酬を求めているだろうし、アナスタシアには支払う義務がある。
 それよりも彼らは、お互いの出会いやオリオンとの出会いを楽しんでいるようであった。
 
 アレックスは将来、ダグスク侯爵に身を捧げるのだろう。
 騎士としての矜持が彼の精悍さを物語っている。
 やんちゃに見えるロジャーであるが、アレックスを尊重し支えるのを躊躇っていない。

 ヒューゴと名乗った彼の立ち振る舞いは貴族の道徳を知っているようで、ただの冒険者ではないと分かる。
 双子の兄妹は性格もバラバラそうであるが、初めての場所に気を配っているのが窺えた。
 エルフであろう少年は大人しく人の話に耳を傾け、時折、隣に座る小さな少女を気にかけては2人で微笑んでいた。

 特質すべきはイオリで、どこから見ても穏やかな青年だ。
 それなのに夫、ディエゴの見立てではアレックスを凌ぐ戦闘力があるとか・・・。
 どのように“エルフの里の戦士”を仕留めたか聞いてもアナスタシアには理解できなかった。
 若くしてSランク冒険者まで駆け上がったイオリについては、今や国中に噂が広まっていた。
 だが、すれ違ったとしても彼が噂の“黒狼”だと気付く人間は少ないだろう。
 折に触れて目が合う彼の綺麗な青い瞳に見惚れるが、その瞳の奥に吸い込まれそうになる自分がいた。
 
 子供達が彼を穏やかにしているのか、それとも穏やかな彼だから子供達がそばにいるのか・・・。
 イオリに甘える子供達を見て、アナスタシアは微笑んだ。

「ポーレット公爵とダグスク侯爵に感謝します。
 最高の冒険者さんを送ってくれたのですね。」

 アナスタシアの言葉にイオリ達はニッコリと微笑んだのであった。




「さて、お前達の報告を聞いたところで今度は我々が答えよう。」

 和んだ雰囲気の中、ギルドマスターであるルドーが口火を切った。

「お前達が捕まえたロレンツォ・カーラ。
 オンリールの冒険者についてだ。」
 
「そう。それ!
 気にしてたんですよ。」

 そう話したアレックスは気を引き締めた顔で頷いた。

 同じように頷いたイオリだったが再び・・・

《あぁ、そんなのもいたな。》
 
 と心で呟いたのをゼンとヒューゴにはバレていたのであった。
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