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旅路〜イルツク〜

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 イルツクの街にベルの音が鳴り響いたその日は、恐怖からの解放された日でもあった。
 
 “エルフの里の戦士”は別にイルツクの街を狙ったわけではない。
 イルツクの街の側にあるダンジョンに用があったのだ。
 
 しかし、そんな事はイルツクの街の住人達には関係のない話であり、いつ街を襲われるかと恐怖に包まれていた。
 まぁ、その刃が実際に街を襲ってもおかしくはなかった訳で、彼らの安堵を思えば喜ばしい事であった。

 街が祝杯をあげる中、恐怖からの解放の功労者である、ポーレットから来た冒険者達は眠りについていた。

 朝早くの出発もある。
 子供達は各々の寝相で夢の世界に入っていた。
 イオリとヒューゴも流石に疲れたのか、夕食も取らずに眠った。

 アウラも子供達の側で目を瞑り、ゼンはイオリのベットに潜り込んだ。

 月夜に照らされる窓辺に小さな深紅の小鳥が目をきらめかせていた。
 日中は寝る事の多い小鳥であるが、何かと会話をするように小さな歌声をあげている。

~♪~♫~♪

 小さな小鳥・・・ソルは主人の寝顔を見た。
 自分の役割を認識しているソルは遥か離れた地で待つ、と会話を終えた。
 ソルの瞳は見上げた月と同じ程、黄色く煌めいていた。






 ポンポンポン

 イオリはゼンに胸を叩かれて目を覚ました。

「・・・おはよう。ゼン。」

『おはよう。イオリ・・・お腹減った。』

「あぁ。
 昨日は食べずに寝ちゃったからね。」

 起き上がるとイオリは枕元で丸まるソルを見て微笑んだ。
 ベットから出てイオリはクスクスと笑った。

 スコルは軽く身を縮め横向きで目を瞑り、その隣に眠るパティにお腹を押されるているようだった。
 当のパティはお腹を出して片手を挙げている。
 ナギは1番綺麗に上向きで眠り、手にお気に入りのタオルを握っていた。
 ニナに関しては、いつの間にかヒューゴの胸に上がりしがみつくように眠っている。
 そんなヒューゴは重さを感じてないかのように平然と目を瞑り腕を頭に回していた。

『もう。パティはお腹冷やすよ。』

 ゼンはパティのお腹を隠すと、目を擦って起きたナギの頬をペロっと舐めた。

「クスクス。
 おはよう。ゼンちゃん。イオリ。」

『おはよう。ナギ。』

「おはよう。疲れてない?」

 イオリはナギの頭を撫でると、ナギは嬉しそうに首を横に振った。

「ううん。大丈夫。
 でも、お腹減った。」

 ナギに同意するようにゼンは頬ずりをした。

 ゼンは子供達の兄であると自負している。
 だから、子供達に甘える事はしない。
 イオリ以外に頬ずりをするのは諌めている時だ。

「そうだね。
 みんなを起こそう。
 2人に頼んで良いかい?
 お風呂に入ってくるよ。」

「うん。任せて!」

 ナギはハイハイするようにヒューゴの元に行き、揺さぶり出した。
 イオリは微笑むと風呂場に向かった。
 自分達のテントの風呂場より小さいが十分だった。

「教会に行ってないな。
 報告もしたいし、オリオンの事も聞きたいし・・・。
 うん。
 ギルドに行くのは昼過ぎだから、ご飯食べたら、教会に行こう。」

 イオリは風呂場に聞こえてくる子供達の騒がしい声に微笑んだ。
 
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