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旅路〜イルツク〜

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 ギルマスの言葉の後に次々と呼ばれている冒険者パーティーの中、イオリは鋭い視線に気づいていた。
 イオリだけではない。人の悪意に敏感な子供達やヒューゴも同じく反応し、身を固くしている。

「何だアレ?」

 ロジャーやアレックスも流石といったところか、視線の先を牽制するように睨みつけた。
 
「知り合いか?」

 アレックスの問いかけにイオリは無言で首を横に振った。

「あれは確か・・・。」

 レンの言葉にリーダーが頷いた。

「オンリールから来た奴らだ。
 中央にいるのがロレンツォ・カーラと言って貴族の出のSランクだよ。
 腕は良いらしいが、気に入らないとなると仕事をしないともっぱらの噂だ。
 他領から来たSランクでは奴が一番最初に現れたんだ。」

 オンリールと聞いたイオリはヒューゴと目を合わせると危険を認識し静かに頷いた。

《アイツの匂いは嫌い。
 悪い奴の匂いだ。
 覚えたよ。ダンジョンで近くに来ても大丈夫。》

 ゼンが直接イオリに伝えると、アウラも知ったように頷いた。

 イオリ達を睨みつけていたロレンツォ・カーラはギルマスに呼ばれると部屋に姿を消していった。

「大丈夫だ。
 アイツの事は注意しておくよ。
 あんな輩は関わると碌な事がないからね。」

 イオリよりも先輩であるアレックスが呟くとロジャーも深く頷いた。

「大丈夫です。
 ゼンが匂いを覚えました。
 アウラも・・・。
 それでも、一度は話をする事になりそうな予感がします。」

 イオリの言葉にヒューゴも同意するように頷いた。

「ゼン!匂い覚えたの?
 凄いや!!
 俺のも?ねー?俺のも??」

 重い空気を消すようにロジャーはゼンに構い始めた。
 と言ってもゼンはウンザリする様にイオリの影に隠れてはロジャーに低い唸り声をあげていた。

「威嚇もカッコイイ!!
 ほら、ゼン出ておいで。
 一緒に遊ぼうよー。」

 そんなロジャーの服を引っ張る者がいた。

「ゼンちゃんは嫌がってます。
 ロジャーは大人しくしていなさい。」

 ニナが腰に手を当てて頬を膨らますと、スコルとナギがゼンの前に庇うように立った。

「でもさぁ。
 ゼンが・・・。」

 それでもロジャーが食い下がると、今度はパティが首を振りながら手を前に突き出してきた。

「しつこいと嫌われるよ。
 ゼンちゃんは優しいし楽しいけど、一度嫌われると絶対に好かれないよ。」

 パティの忠告にロジャーはイヤイヤをする様に首を振った。

「やだよ!ゼンに嫌われたくない!
 分かった。
 大人しくしてる。
 また遊ぼうね!」

 ゼンは子供達の脇から伺うようにロジャーを覗き見た。

《気が向いたらね。》

 ゼンのセリフにイオリが1人微笑んでいたのだった。


ーーーー次の瞬間だった。

「クソが!!
 知らねーからな!!
 シケた仕事を引き受けたもんだ。
 オラ!お前ら行くぞ。」

 大声を上げながらギルマスの部屋を出てきた男達にイオリ達は視線を移した。 
 ロレンツォ・カーラは悪態をつきながらも受付に向かうと荒々しくギルドカードをカウンターに叩きつけた。

「さっさとしろよ!」

 ロレンツォ・カーラの脇から男達が大声を出す。
 受付にいた人間達は慌てたようにカードを受付記録をつけ始めた。

 差し出されたカードを乱暴に受け取るとロレンツォ・カーラはイオリを一瞥すると鼻を鳴らしてギルドを出て行った。

「・・・何だあれ?
 態度悪いな。」

 レンのパーティーのリーダーが驚いたように呟く中、イオリとヒューゴ、アレックスにロジャーは視線を合わせ溜息を吐くのだった。

「次!
 アレックスとロジャーに若いの!
 イオリと言ったか?
 お前らも入ってくれ。」

 ギルマス・ルゴーの声掛けに一行は部屋に歩み寄った。
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