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旅路〜イルツク〜

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「アレックスさん。ロジャーさん。
 おはようございます。
 お待たせしました。
 昨日はご馳走様でした。」

 イオリは宿屋の食堂のカウンターに座り主人と談笑する2人に声を掛けた。

「おう。
 朝からすまないな。
 ギルマスから声が掛かった。
 なんだか急ぎらしいだ。
 お前らと行動共にするなら一緒にって話だよ。
 子供達は大丈夫かい?」

 アレックスはシャキッとした笑顔で手を挙げた。
 比べてロジャーは眠そうだ。
 声無き挨拶をするとゼンにお尻を突っつかれえては椅子から落ちそうになっている。

「大丈夫ですよ。
 ウチは早起きが多いんです。
 今準備してますから、もう少し待って下さい。
 親父さん、朝から騒がしくてすみません。」

 イオリが挨拶をすると、カウンターに立ち静かに見守っていた主人はニヤリとして手を振った。

「冒険者相手の商売なんてこんなものさ。
 何よりもお前さん達はよ。
 この街の為に来てくれたんだろうて。
 俺達、住人が出来る事なんて大した事じゃねーのさ。
 気にせずに使ってくんな。
 帰ってきたら寄ってくれよ。
 宿屋『蓮の傘』はいつでも扉を開いておくぜ。」

 イオリはニコっとすると頷いた。
 階段が騒がしくなり子供達が姿を表すとボーッとしていたロジャーも目に力が入り始めた。

「みんな、おはよう。
 ゼン!おはよう。
 起こしてくれてたんだね。
 ありがとー!!
 さぁ、ギルマスのとこに行こう。
 みんなの戦闘服カッコいいね。
 俺達のは王都でオーダーメイドしたんだ。」

「おはよう。
 アレックス、ロジャー。
 親父さんも、おはよう御座います。
 オレ達のは全部カサドさんが作ってくれたんだよ。」

 代表してスコルが答えるとロジャーは目を見開いた。

「あの、名工の?
 噂じゃ客を選ぶって聞いたけど、全部って凄いね。
 王都でもカサドさんの名前は知れ渡ってるみたいだよ。
 凄いじゃーん!
 後でパティの双剣見せて。」

 寝坊助のパティも元気に笑顔で答えた。

「いいよー。
 でも、使わないでね。
 感覚が変わるのが嫌だから。」

 一端の冒険者であるパティの言葉にロジャーは訳知った様に頷いた。

「さぁ、行こうか。
 あちらも何か急いでいる様だったからね。」

 アレックスの声かけにイオリとヒューゴは頷いた。

「お世話になりました。」

 イオリの挨拶に『蓮の傘』の主人は手を振った。
 子供達も真似して手を振り扉を開け出て行くと宿屋は一気に静かになった。

「無事に帰って来いよ。」

 誰も居なくなった食堂に主人の声だけが響いた。


_________

 今やイルツクの冒険者ギルドに集まった冒険者達はギルマスの声を待っていた。
 普段とは違い、高ランク冒険者達が集まっているからか、仕事の前だからか騒がしさなど皆無で静まり返っていた。

 そこに2組の冒険者が加わった。
 人一倍若いパーティーに視線が集まるが特別声をかけられる輩もいない。
 緊張とは違う静寂がギルドを覆っていた。

 そんな時だった。

「イオリ!」

 懐かしい顔が手を振っていた。
 イオリはニッコリすると頭を下げた。

「お久しぶりです。
 レンさん。皆さん。
 ご無事で何よりです。」

 3年前に出会った冒険者・レンとの再会をイオリは喜んだのであった。
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