続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

文字の大きさ
上 下
46 / 782
愛し子の帰還

45

しおりを挟む
 ポーレットの新たなSランク冒険者の誕生はあっさりしたものだった。

 本人すらキョトンとしていたのだから、仕方がない。

 しかし彼の実力は本物だった。
 Aランク冒険者が数人で討伐に乗り出す魔獣も彼は1人で狩ってくる。
 それが、家族の夕飯になると思えば彼にとって単なるだった。
 そんな彼が自分の実力に実感がないのは隣に規格外の仲間がいたという事だろう。
 もはや、比べるのも馬鹿らしい仲間の攻撃力の影に隠れた彼の実力がいつのまにかSランクにまで達していたとは・・・。

 新しく光るプラチナのカードと指輪に少しづつ実感をし始めたヒューゴは嬉しそうに街を歩いた。


 
 屋台街の朝に活気が出始めていた。
 イオリ達が人の波を抜けて壁門に向かうと、白い甲冑を身に纏った一団が現れた。

 中央にはニコライ・デュ・ポーレット・・・ポーレット公爵家の嫡男がいた。
 隣には次男のヴァルト、加えてそれぞれの従者が侍っていた。

「ニコライ!ヴァルト!」

 パティが嬉しそうに手を振るとニコライはニッコリと微笑み、ヴァルトは手を振っていた。

「ギルドで話は聞いたようだな。
 ヒューゴおめでとう。」

 ニコライの言葉にヒューゴは照れたように頭を下げた。

「ありがとうございます。」

 すると、ニコライは真面目な顔になり弟のヴァルトに目で合図をした。
 頷いたヴァルトは一歩前に出ると胸に手を当てた。

「我々、ポーレット公爵家はポーレットより新たに現れたSランク冒険者を放っておくわけにはいかない。
 よって、貴殿にポーレット公爵家専任冒険者としての契約を打診する。
 こちらは父、テオルド・デュ・ポーレット公爵よりの書状だ。」

 再びポケッとしたヒューゴの背をイオリが叩いた。
 ニッコリ頷くイオリにヒューゴは涙目で頷いた。

「有り難く・・・お受けいたします。」

 膝をつくヒューゴにニコライは嬉しそうに近づいてきた。

「そうか!良かった。
 本当に急遽だったんだ。
 本来は屋敷にて父上との式典があるんだが・・・ほら、イオリが行ったアレだ。
 どうにも都合がつかなくてな。
 間に合って良かった。
 これは父からの預かり物だ。
 イオリと同じポーレット公爵家専任の証だ。
 持って行ってくれ。
 Sランクのカードと冒険者ギルドマスターの指輪、加えてポーレット公爵家の指輪があれば、どの国の王族にも会う事が出来るだろう。
 2人とも上手く使え。
 他国では賢く立ち回れよ。」

 イオリとヒューゴは甲冑姿のニコライに膝を付いた。
 2人を真似してか子供達も後で膝をつく。

「数々のご好意に感謝します。
 ポーレット公爵家の家紋に恥じぬ行動を心がけます。」

「同じく。
 己の身には過ぎた、御好意に感謝いたします。
 自身の役目を果たします。」

 ニコライとヴァルトは満足そうに頷いた。

「友よ。
 再び会おう。
 ・・・みんな、行っておいで。
 土産話を待ってるよ。」

「気をつけてな。
 いつでも連絡してこいよ。
 助けが必要な時は頼れよ。」

 イオリは頷くと腰バックから馬車を取り出した。
 アウラは自分の出番と大きくなり馬車のハーネスを受け入れた。

 その状況に流石の人々も瞠目し始め注目し始めた。

「アレって、黒狼って奴じゃないか?」
「嘘っ!どこ?どこ?」
「ポーレット公爵家の坊ちゃん達に膝をついてたぞ?」
「そう言えば、冒険者ギルドから出てきた奴が新しいSランクが出たとか何とか・・・。」
「本当?それじゃ、あの大きい人がそうなの?
 子連れじゃない!」

 目立つ白い甲冑を見ていた見物人達が騒ぎ出した。

「騒がしくなってきた。
 もう、行け。
 後は大丈夫だ。
 イルツクには連絡してある。
 王都の叔父上達も、お前達の到着を楽しみにしている。
 宜しく伝えてくれ。」

「はい。」

 イオリがニコライとヴァルトと話している間にヒューゴは御者席に座りアウラを撫でた。
 双子がピョンと飛び乗り、ナギとニナに手を貸している。
 それを従者4人が名残惜しくも構い倒している。

「良いか?
 世界は私達のものでもある。
 お前が1人で抱え込む事はないんだぞ。
 欲張るなよ。
 お前達らしく楽しく旅をして来い。」

 ニコライはコレだけはという事を伝えた。
 
「はい。」

「いつでも助けに向かう。
 お前達なら何とでもなるだろうがな。
 父上も笑っていたよ。
 元気でな。」

 ヴァルトは寂しさを我慢してニッコリ笑った。
 
「大丈夫です。
 俺には家族もいるし、相棒もいますから。」

 イオリが抱きつくとゼンは誇らしげに顔を上げた。

 ヴァルトの肩からクロムスが飛びつくと全身でゼンに頬擦りをする。

「それじゃ、行ってきます。」

 イオリは馬車に飛び乗った。

 治安維持達が門を開け、今にも出発する時だった。

「待ってー!!」

 聞き馴染みのある声が聞こえ、イオリは振り向いた。
 誰が叫んでいるのか分かるとニッコリして子供達を手招く。

「あっ!ローズさん!!ダンさんも!
 ベルー!!」

 一番に気づいたパティがブンブンと手を振った。

 “日暮れの暖炉”の店主夫婦が慌てたように走ってきた姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※ 両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。 多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。 大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。 そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……? *HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

処理中です...