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愛し子の帰還

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 朝露が煌めき木々全体が輝いている頃、イオリ達は街へ繰り出した。
 朝から一緒に屋敷を出たのはポーレット公爵の次男であるヴァルトと従者達、加えてオルガ夫人も同行していた。

「もう。こんなに早くポーレットを出る事になるなんて・・・寂しいわ!
 もっとゆっくり出来たら良かったのに!」

 唐突に出発する事になり御立腹なオルガ夫人にイオリは申し訳なさそうに眉を下げた。

「1ヶ月くらいはゆっくり出来ましたから・・・。
 それに図書館に同行してくれて、ありがとう御座います。」

「良いのよー。
 帰ってきてから何度か顔を出してくれてるって聞いてたから、一度は一緒にと思っていたの。
 毎月、新しい本が入ってくるのよ。
 今度、地域によって伝わる寝物語もまとめようと思っていると、ココちゃんからの手紙に書いてあったわ。
 親が子供に聞かす話よね?
 素敵だと思うわ。」

 楽しそうなオルガにイオリは微笑んだ。

「良いですね。
 親の優しい教えが詰まってそうです。」

 親の優しさとやらに飢えていた子供達は顔を見合わせ肩を竦めた。

「みんなだってあるよ。
 スコルとパティは御両親に剣術を教えてもらったろう?
 ナギはライヤーの弾き方を、ニナの生活魔法はヒューゴさんに・・・。
 子供達には大人の人が教える一歩目があるんだよ。
 寝物語も同じさ。」

 なるほどと納得したのか子供達は前を歩くヴァルト達の元に走っていった。

「可哀想な事を言ってしまったわね。」

「いいえ。昔に比べて親達の話をするようになりました。
 折り合いがついてきたのだと思います。
 ニナにはヒューゴさんがいますし、ヒューゴさんにもニナがいる。
 1つでも守ものがあると人間は強いです。」

「そう・・・そうね。
 あの子達が見る世界は、どう移ろっていくのかしら?」

 どう移ろう・・・。
 願わくば笑みを絶やさないでいて欲しい。
 自分といれば、いずれ出会う事になるの存在を憂いてイオリは溜息を吐いた。

『大丈夫だよ。
 もう、前みたいに置いていけないもん。
 その決意をして3年修行したんだから。』

 イオリの気持ちを悟りながらも子供達の兄貴分としてゼンは自信満々に言った。

「大丈夫・・・うん。
 大丈夫さ。
 あの子達には広い世界を見せたい。
 美しい物を見て欲しい。」

 飛び跳ねるように歩く子供達の背をイオリ達は見つめた。

《俺のじーちゃんとばーちゃんも同じ事を思ってたのかな・・・。》

 久しぶりに故郷を思い出したイオリはゼン撫でると図書館の扉を開く子供達に微笑んだ。


 開館前の図書館にはオルガ夫人と共にイオリが来ると聞いて神父のエドバルドが待っていた。
 教会と共に図書館の管理もする彼もまた、子供達の未来に希望を持つ1人だ。

 出立前の挨拶にとイオリはエドバルドと握手をした。
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