続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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愛し子の帰還

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「旦那!」

 慌てて厨房から出てきたカッチェであったが、イオリとヒューゴが笑顔で店を出て行くのを止める事ができなかった。

「任せると良いよ。
 カッチェさん。僕、ヨーグルトが食べたい。」

 なんて事ないように言うスコルに戸惑うカッチェだったが、他の子供達も気にする事なく食べ続けている様を見て一息吐くと頷いた。

「そうだね・・・。
 よしっ!今持ってくるよ。
 みんなも変わらずに接客をしてくれ。
 大丈夫。
 旦那がなんとかしてくれるさ。」

 戸惑いながらも頷く従業員を背にカッチェは再びキッチンに戻り、子供達の為にヨーグルトにワイルドベリーのジャムをかけた。
 
_________

 食の改変が起こったポーレットにおいて、人の増加は避けられないものだった。
 何せ国王がいる王都よりも美食を得られると多くの貴族が訪れ、それに付随して商人達も流動していた。

 その中でもポーレットに根を下ろし、儲けを求めて商売人達が利権を得ようと画策するものだから商人ギルドを始め、ポーレットの既存の商人達の間の結束が高まった。
 それでも強引なやり方で客を得ようとする商会は後を立たない。

 特に砂糖と牛の乳の利用法には多くの人間が驚愕した。
 砂糖はポーレット公爵家も関わった公共事業な為に、おいそれと手を出す事が出来ないが牛の乳は違う。
 なんとかして一噛みしておきたいと、個人店や露店に狙いをつけては問題を起こしている。
 この3年間、ポーレット公爵家の陣頭指揮の元、商人ギルドも目を光らせてきた。
 それでも牛の乳を使った料理が人気のカッチェの店には時折、嫌がらせをする人間がやってくる。

 今回も、どうにかカッチェを取り込もうとした商会が失敗した事で嫌がらせに客を取ろうと画策しているのだ。
 金を払い人相の悪い男達をカッチェの店に送り出し客を寄り付かせなくしようとしていた。
 今日も今日とて見張っていた連中から若い客がカッチェの店に来たと報告があり、男達を送り出した。

 しかし今日の客は一味違う事を彼らは知らなかった。

 目の前の青年が家族との団欒の食事を邪魔されるのが一番嫌いだと言う事を・・・。
_________

「こら、小僧!!
 文句あんのか!」

 知性のかけらも無い男達の怒鳴りにイオリはニコニコしている。

「子供達が食事中なんです。
 静かにしていただかないと困ります。」

「何が困りますだ。
 こっちが親切に教えてやろうと言うのに、生意気な!」

 1人の男がイオリの肩を捕まえようとした時だった。

バシッ!

 ヒューゴが男の腕をはたいた。

「グァァァ!痛てぇぇ!」

「触るな。」

 イオリよりも遥かに凄みのあるヒューゴに男達はたじろぐが直ぐに気を取り直した。

「手を挙げたな!治安維持隊を呼べ!
 田舎の冒険者を捕まえろ!」

 男達がギャーギャーと騒いでいると、呼ぶまでもなく治安維持隊がやってきた。
 先頭には隊長のロディがいる。
 治安維持隊の姿を見れば男達はさらに騒ぎ出した。
 今や人の目も集まっている。

「こっちだ!こいつらが暴力を振ってきた!
 ひっ捕らえてくれ。」

 ロディは現場を見つめ、イオリ達を確認すると溜息を吐いた。

「なんだよ・・・また、巻き込まれたか?」

「あー。これは俺が喧嘩を買いました。
 子供達が食事中なんです。」

 イオリが親指で後を指せば、ロディはカッチェの店だと分かった。

「なるほどな・・・。」
 
 ロディは頷くと男達に顔を向けた。

「そりゃ、お前らが悪い。」

「はぁ!?なんだよ!
 お前ら、治安維持隊だろう!?
 市民が怪我を負わされたんだ。
 冒険者ギルドのやつも引っ張り出してこいよ!!」

 男達は納得いかないと抗議する。

「あぁっ?なんか用か?」

「ギルマスじゃないか?昼飯か?」

 騒ぎの中に顔を出したのは冒険者ギルドのギルドマスター・コジモだった。
 声を掛けたロディはコジモの登場に騒ぎが大きくなる事を予想した。

「あぁ、この店のシチューが好きなんだ。
 それより、イオリ?
 何事だ?」

「店内でうるさくしていた方達と話し合いをしています。
 手を出されそうだったので、ヒューゴさんが叩きました。」

 肩を竦めるイオリにギルマス・コジモはギロリと男達を睨みつけた。

「うちのSランクがそう言ってるが?
 お前達の言い分は?」

 男達は目を白黒させるとイオリとギルマスを見比べた。

「え・・・えす・・Sランク冒険者?」

「大した事はありませんよ。
 ギルマスが大袈裟なんです。
 俺はただの冒険者ですよ。
 貴方達が言ったのね。」

 イオリの言葉にギルマスだけでなく、治安維持隊と加えて見物していた街の人間達が厳しい目を向けた。

「ほう・・・ポーレットを田舎と言ったか。」

「その田舎にたかる蠅はお前達の事で良いよな?
 どこで雇われてる輩だ?」

 治安維持隊とギルマスに囲まれビクビクする男達は口を継ぐんだ。

「向かいの店を勧められましたよ。
 確か、サガン?」

 すかさず報告するヒューゴの言葉に向かいの店のカーテンが閉まった。
 ずっと覗いていたのだろう。
 カーテンに映る影が右往左往している。

「サガンの店か・・・確か西の街オンリールから流れてきた店だな。」

 ルディの言葉に男達はビクッとした。
 イオリはカーテンの閉められたサガンと言われる店を静かに見つめるのだった。
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