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愛し子の帰還

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「だーかーらー。セドリックさん。
 以前に助言したでしょう?
 その色や服装は合わないって!」

 バートの言葉に肩を竦めたセドリックは口を尖らせた。

「だって~。
 お菓子ってこーゆー物でしょう?
 可愛くって、美味しくって、夢の中の食べ物。
 他の店だって可愛くしてるじゃな~い。」

 確かにポーレットの菓子屋には、そんなイメージはある。
 しかし、目の前の男が無理をしている事は誰の目にも明らかだった。

「みんなと同じにしても意味がないって言ったでしょうが!」

「だから私が、こんな格好する事に意味があるんでしょう~。
 意地悪言わないでよ~。
 泣いちゃうんだから~。」

 セドリックは筋肉が盛り上がった腕を曲げシクシクと泣き真似をした。
 バートが深い深い息を吐いた時だった。
 徐に子供の声が響いた。

「お菓子が夢の中の食べ物って言うのは、パティ同意!
 美味しいよね。お菓子!」

「ニナも可愛い物好きだよ。
 セドリックさんは何が好き?」

 パティとニナの恐れを知らないコンビが話しかけるとセドリックは嬉しそうにカウンターに肘をついた。

「まぁ~。
 話が分かる子がいて嬉しいわ。
 私はね~。やっぱり一番最初に食べたクッキーかしら。
 貴方達は、どんなのが好き?」

 食いしん坊のパティは考え込むとニカっと微笑んだ。

「パティもクッキー好き。
 カステラも好きだし、スポンジケーキに苺がたっぷり入ってるのも好き。
 プリンも好きだよ。
 う~ん。一番を決めるのは難しいよ。」

「ニナも~。
 ニナも一番最初に食べたのクッキーだよ。パティちゃんがくれたんだぁ。
 飴も好き!口の中にずーっと甘いのがあって幸せが長く続くから!」

 うんうんと嬉しそうなセドリックは徐に視線を真っ黒な青年に向けた。

「それで・・・ホワイトキャビンのトップが直々に連れてきたお客様はどなたかしら?」

 すると青年は我に帰ったように微笑んだ。

「初めましてセドリックさん。
 冒険者をしています。イオリと言います。
 バートさんから紹介されてやってきました。
 少しお邪魔します。」

「えぇ・・・いらっしゃい?」

 やはりピンときていないセドリックはただ肩をすくめるだけで何も言わない。

「先程から話しているのが末っ子のニナで隣にいるのがパティです。
 パティの双子のスコルにこちらはナギ。
 それとヒューゴさんに従魔のゼンとアウラとソルです。」

 構わず家族を紹介するイオリにセドリックは愛想笑いをした。
 すると、スコルと紹介された少年がトコトコと前に出ると腰に手を当ててセドリックの前に立った。

「セドリックさんは、その格好や内装が好きなの?」

「えっ?
 えーっと・・・。」

「好きじゃないのに、その格好しているの?」

「この方が、客様が来るかなって・・・。」

「ふーん。
 でも、似合ってないよ?」

 あまりに直球なスコルにイオリ達は苦笑した。

「好きなら良いですよ。
 落とし所を決めていけば良いんですから。
 でも、好きでないのなら話は別ですね。
 これから一生、このパターンを続けていく覚悟がありますか?
 商いは、飽きてはいけないんです。

 お客さんも自分も偽り続けるのは苦しいですよ?」

 イオリの言葉にセドリックは深い溜息を吐くとピチッとセットしていた髪をクシャクシャっとした。

「あーーーー!
 じゃあ、どーすりゃ良いんだよ!
 客は来ない!金がないから材料が買えない!
 借金だって山ほどあるし、何もかもが上手くいかない!」

 気持ちが切れたセドリックがしゃがみ込み大声で嘆くと肩をポンポンと叩く手があった。

 そこには小さなニナがニッコリと微笑んでいた。

「手伝うよ。」

 ニナの肩越しに声をかけたスコルは親指を立てて頷いた。

「え?・・・え?」

 パティとナギも加わりセドリックを励ましているとバートが近づいた。

「実はね。
 グラトニーの菓子もイオリさんの考えで作られているんです。
 今回は皆さんが貴方の菓子を気に入ってくれましてね。
 力を貸してくれる事になったんですよ。」

 バートの言葉にセドリックは驚き思わずイオリを見つめた。

 恥ずかしそうなイオリを従魔のゼンがグイグイと押している。

「まぁ、そんな事なんで。
 お力になれる事があればと。」

「何で、俺なんかを・・・?」

 戸惑うセドリックに子供達が大きな声を出した。

「「「「だって、セドリックさんのお菓子が美味しいから!」」」」

「勿体無いよ!
 他の店は甘いけど、何か違うんだよ。
 イオリのお菓子を真似できるのは直接教えてもらった御屋敷のコックさん達くらいなのに、セドリックさんは自力であの味だもん。」

 興奮状態のスコルにセドリックは弱々しく微笑んだ。
 
「ありがとう。
 グラトニー商会のクッキーを食べまくったんだ。
 ほ・・・本当に彼がアレを作ったのかい?」

「それだけじゃないよ!
 もっともっと沢山、いろんな物を作ってくれるよ!
 食べる?」

 スコルが腰バックからお菓子を取り出すと他の子供達も我も我もとカウンターに並べていった。

 興味津々なセドリックは小さな丸いクッキーを手に取るとマジマジと見つめた。

「それはボーロだよ。
 ニナ大好き。
 クッキーよりも口溶けが良いんだぁ。」

 一丁前のレポートにヒューゴがクスクスと笑う。

「ボーロ・・・?
 とても軽いね。」

 ボーロを口に入れるとセドリックは目を白黒させた。

「なんだコレ!?」

 その数分後、イオリのお菓子に魅入られたセドリックが頭を下げて教えを乞う光景が見られるのであった。
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