続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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愛し子の帰還

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 少し前の事だったーーー

 ポーレット公爵家ヴァルトは執務室で仕事をしていた。
 側には自身の従魔の親子であるルチアとクロムスが真っ赤な小鳥と戯れている。

『今日は真面目に仕事ですか?』

 ルチアがテーブルに飛び乗るとヴァルトは顔を歪めた。

「いつも真面目じゃないみたいじゃないか。
 近々、イオリ達が帰ってくるからな。
 今のうちに仕事を済ませておけばアイツらと過ごせるだろう?
 その準備だよ。」

『フフフ。
 本当に楽しみですね。
 貴方も少しは成長したのでしょうか。』

 ニコっとして前足を枕に目を瞑ったルチアにヴァルトは苦虫を潰した顔をしながら一枚の書類に目をやった。

「・・・また、“エルフの里の戦士”か。」

 その言葉にルチアは無言で瞳を開いた。

「また、アースガイル国内で“エルフの里の戦士”が目撃されたそうだ。
 今度は北の地イルツクの近くだと書いてある。
 他国でも目撃情報が報告されている今、何が起こってもおかしくないな。
 そんな時にイオリが帰還する・・・。
 偶然か、絶対神の道標か・・・。
 またアイツを巻き込むのか。」

 考え込んだヴァルトに、ルチアは体を持ち上げ主を見上げた。

『貴方の心配はもっともです。
 良くも悪くもイオリは目立ちますからね。
 3年前に“黒狼”の名はアースガイル中に駆け巡りました。
 他国にも情報が届いた今、如何に閉鎖的であったエルフの里の者達もイオリの存在は知られているでしょう。
 加えて、我らの“愛し子”は自由を愛する者。
 大人達の思惑から守ってやりたいのです。』

「それについては、父上や兄上とも話している。
 国王陛下も了承済みだしな。
 クククっ。
 国王・・・叔父上はイオリが帰ってくると聞いて大喜びだったそうだ。
 早く王都にも顔を出させろと父上に催促しているのだそうだ。」

『アルの事ですから大方、イオリの料理が目的でしょう。』

 ルチアの呆れた顔を見てヴァルトは笑い出した。
 イオリ達の事が心配であるものの、何よりも再び、風変わりな友人に会えるのが楽しみなのである。

 そんな時だった。

 クロムスと戯れていた赤い小鳥、イオリの従魔であるソルが落ち着きなく羽ばたき出した。
 今にも窓を破って外に出そうであったのをヴァルトは慌てて駆け寄った。

「どうした?!ソル!」

 ヴァルトの言葉を聞こえてないようにソルは窓をカツカツと突っついている。

「あぁ~!分かった。
 待て待て!お前が本気を出すと窓が壊れる!」

 ヴァルトが窓を開け放つとソルは一直線に飛び出していった。
 ルチアとクロムスも窓わくに飛び乗るとヴァルトと共にソルを見送った。

「一体、どうしたんだ・・・あれは・・・
 まさか!?」

 ヴァルトはソルが向かっていった先に見えた人影に驚いた。
 彼らが到着するには早すぎる。
 しかし、耳をすませば懐かしき子供達の笑い声がする。
 
 ヴァルトは部屋を飛び出した。

「おや?
 そんなに慌てて、如何しました!?」

 慌ただしく廊下を走るヴァルトに筆頭執事のクリストフが声を掛けた。

「イオリだ!!
 イオリ達が帰ってきた!!」

 ヴァルトと従魔が走っていくのを、唖然として見送ったクリストフだったが、事態を把握すると焦ったように声を張り上げた。

「皆さん!お戻りですよ!」

 仕事をしていた使用人達はキョトンとしたが、ヴァルトの後ろ姿を見て微笑んだ。

「何事です?」

 トゥーレとマルクルやエドガーやフランなどの従者達が仕事部屋から顔を出すとクリストフは微笑んだ。

「イオリさんの帰還です。
 ヴァルト様が迎えに走られました。」

「何ですって?」
「何っ?!」
「今朝、手紙が届いたばかりじゃないですか!?」
「何てこった。」

 次の瞬間、従者達も慌てて部屋を飛び出していた。

 クリストフは主人への報告の為に公爵の執務室に向かおうとすると、ニコライが現れた。

「アイツら、主人の私に報告しないでイオリを迎えに行くとは・・・。
 フフフ。
 父上に報告か?クリストフ。
 私が行こう。
 イオリ達も疲れているだろう。
 お前も迎えに出なさい。」

「はい。畏まりました。」

 ニコライは嬉々として玄関に向かう筆頭執事の背を苦笑して見ていた。

_ _ _ _ _

 
「イオリ!!」

 ヴァルトは息を上げながら、目の前の光景を呆然と見ていた。
 懐かしい笑い声の先に本当にイオリ達がいた。

「あっ。
 ヴァルトさん。ただいま帰りましたー。」

 相変わらず、気の抜けた挨拶のイオリにヴァルトは何とも言えなかった。

「「「「ヴァルトー!!」」」」

 走り寄って来る子供達は身長も大きくなっていて、3年の月日を物語っていた。

 その後、迎えに加わった従者達や使用人達に笑顔を見せるイオリにヴァルトはホッとした。

「おかえり。イオリ。」
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