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己の価値を知る男は好かれる
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王城でも、既に勝負はついていた。
部屋に押し入った多くの騎士達は剣を捨て、攻撃の意志を手放した。
かつては誇り高くも国王陛下の護衛を司っていた騎士団である。
自分達が現国王へ刃を向けるなど、最後の矜持が許さなかった。
それでも抵抗する者達はピート・リゲル率いる国王直属騎士団が殲滅していった。
残ったのは、グルーバー侯爵と彼を守っている騎士だけだった。
壁際に追いやられた彼らは苦渋の顔をしても、許しを乞う事はしなかった。
「陛下!何故、分かって下さらないのですか?
この男は危険です。
犯罪者を取り込もうなどと、正常の貴族が考える事ではありません。
その牙をいつ、国に・・・陛下に向けるやも知れないのですぞ!?
最早、英雄サムエル・アルデバランの兄という誉は関係のない話なのです。」
グルーバー侯爵の言葉を真剣に聞いていた国王アルベールは、悲しそうな顔で首を振った。
「グルーバー。
お前の国を憂う気持ちを嬉しく思う。
しかし、私はアルデバランの覚悟を知っている。
“悪魔”と言われようと、自領を危険に晒そうと領主としてダチュラを最大限に守っている彼らの行いは国全体をも平和に導いている。
安全だけではない。
貿易も生産も金融に至るまでダチュラは特質すべき街なのだ。
お前達のように、ダチュラの危険性を憂う者達の不安を取り除く事が出来なかったのは私の落ち度だ。」
悔しそうに首を横に振るうグルーバー侯爵を国王アルベールは諭そうと前に進み出た。
が・・・、それをクロスが引き止めた。
「《国を憂い、ダチュラの危険を訴える。
如何に自分が悪者になろうとも、私を・・・クロス・アルデバランを始末しなければいけない。》
・・・そんな可愛げなど、この男にはないさ。」
せせら笑うクロスに国王アルベールは首を傾げた。
「どう言う事だ?」
「報告したな。
先の誘拐事件の主犯とされるミア・サットン伯爵令嬢の事を。」
まだ、話の先が見えない国王アルベールに視線を向けるとクロスは話し始めた。
「可の令嬢が悪意を持って犯行を行なった事は間違いなく。
処罰される対象である事は明白であるが、私達は疑問に思っている。
社交会や茶会に勤しむ花畑にいた令嬢が、あんなゴロツキ共と知り合う事は簡単ではない。
誰か、ミア・サットンにゴロツキ共を紹介した人間がいる。
当然、サットン家自体を疑ったさ。
当主や姉、その嫁ぎ先。使用人まで全て調べたよ。
しかし、サットン家は勿論の事、姉の嫁ぎ先である侯爵家に怪しい点はなかった。
貴族らしい貴族・・・国に従順な一般的な貴族だった。
では、誰がミア・サットンにゴロツキを斡旋した?」
「まさか・・・。」
息を飲み壁際を見つめた国王が見たのは感情を捨て去ったグルーバー侯爵の姿だった。
「今更、言い子ぶるなよ。グルーバー。
被害者であるキャロル・オルコットが監禁されていた家だがな。
アレはお前の妾の生家だろう?
最も、その妾とやらも姿を消し、現在は何処にいるか生きているのかも分からないが、かつてお前の屋敷で働いていた庭師に聞いたぞ。
ダチュラから来た女がグルーバー侯爵家のメイドになり、グルーバー侯爵の妾になったと。
残念ながら、ダチュラでは家の1軒1軒の所有者並びに住んでる人間の情報を管理しているんだ。
何せ“犯罪の街”だからな。
一般の市民に隣人が安全か危険かを知らせる重要性がある。
ユラ・リンリン・・・妾から家の情報を得たな。」
無表情だったグルーバー侯爵であったが妾の名を言われると獣のようにクロスを睨みつけた。
「だったら、なんだと言うのだ。
そのメイドがダチュラの出身だから私に罪があると?
バカバカしい。」
「ちなみに、ミア・サットンからは騎士から紹介されたと聞いてます。
そう、君ですよ。
ヤン・ノヘル。
グルーバー侯爵邸で行われたダンスパーティーで声を掛けられたそうです。」
クロスと国王アルベールの後ろからチェイスが声をかけた。
それにはグルーバー侯爵とヤン・ノヘルと言われた騎士が身じろぎをした。
「そりゃ、貴族の小娘ですもの。
捕まって、怖ーい大人に怒られればペラペラ話しちゃうわよ。」
クスクス笑うソニア・ポルックスに同調するようにクロスは肩を竦めた。
「お前らに狙いを定めて調べ始めてみれば、出るわ出るわ。
不正貿易に詐欺、騎士を使っての暴行・殺人。
我が領でも犯罪に手を染めているそうじゃないか。
証明できる物なら沢山あるぞ。
どうせ、全てがバレると理解して、先に私を始末する気だった。
はたまた、心中でもする気だったのかは知らないがね、よくも私を“悪魔”と簡単に言ってくれたものだね。
お前も所詮は“悪魔”が発した光に群がる蛾と同じだったとはな。」
「黙れ!」
蛾と呼ばれ、激昂したのかグルーバー侯爵はそれまでと違い顔を真っ赤にして叫んだ。
しかし、その後の言葉が続かないのが分かると国王アルベールは厳しい顔でグルーバー侯爵を睨みつけた。
「どうした。グルーバー。
反論していいのだぞ。
そうでないのなら、私は認めると認識する。」
グルーバー侯爵は力強く噛み締めて血が滲んでいる唇を歪めた。
「例えそれが本当だとしても、全ての元凶はアルデバラン侯爵の思想が国を歪めているのです。
犯罪であろうと、それは領地を預かる貴族にとっては収入の1つです。
それをアルデバラン侯爵は独り占めしているのと同じ事。
私は、国のバランスを考えればこそ
ダチュラの存在を危険視しているのです!」
グルーバー侯爵の言い草に呆れる面々の中、静かに怒っていた人間が声を上げた。
「ふざけるのも大概になさい!!
犯罪が財産とでも言うのですか!?
夫やダチュラの貴族達、領民達の覚悟を知らずに何を自分の欲望を押し付けているのです!!
恥を知りなさい!
クロス・アルデバランは高潔にして尊き貴族です。
己が“悪魔”と揶揄されようと、群がる犯罪が重石になろうと、領地や領民を1番に考え自分の犠牲を置き去りにしても仕事に満身する人間です。
貴方のような歪んだ欲望を正義と宣う人間と同じにしないで下さい!」
普段、クロスの隣で微笑んでいるエステルの怒りに仲間であるダチュラの面々も驚きながらも彼女の言葉に同調した。
「悪者になる覚悟って簡単じゃないんだよね。
まぁ、女性は危険な男も好きだろう?」
「ロウ・・・貴方って、やっぱり残念な男ね。
全く、他人は好き勝手言ってくれるわ。
クロスに振り回される私達の身にもなりなさいよ。」
「でも、ソニア姉様。
いつも、とっても楽しいわ。」
「そんな君だから、僕は結婚したんだよ。」
「はいはい。惚気ないの。
グルーバー侯爵・・・妹を怒らすなんて、よっぽどですよ。」
ロウ、ソニア、ナディア、カミロ、ウィリアムがいつもの様に軽口を叩いているとチェイスがクロスの隣に立った。
「私達は、いくら馬鹿にされようと大概は気にしません。
何故なら、他人の評価など意味がないからです。
我らダチュラの貴族がアルデバラン家に親愛と忠誠を捧げるのは、私達以上に彼らが我々を愛してくれているからです。
領主の愛に応えるのがダチュラに住む者の覚悟です。」
そんな彼らを前にクロスは溜息を吐き苦笑した。
「私が統治しようが、誰がしようがどうでもいいのさ。
領民が平穏に暮らせるのなら、領主など誰がしても同じだ。
しかし、あの街は一筋縄ではいかないぞ。
グルーバー侯爵よ。
面倒事を引き受けてくれるのなら、私はいつでも引っ込むさ。
領民が受け入れてくれるかは知らんがね。
あぁ、ダチュラは“犯罪の街”だ。
くれぐれも背後は気をつけられよ。
この状況から逃げられればの話だが。」
グルーバー侯爵は膝をつき、完全敗北を悟ったのだった。
部屋に押し入った多くの騎士達は剣を捨て、攻撃の意志を手放した。
かつては誇り高くも国王陛下の護衛を司っていた騎士団である。
自分達が現国王へ刃を向けるなど、最後の矜持が許さなかった。
それでも抵抗する者達はピート・リゲル率いる国王直属騎士団が殲滅していった。
残ったのは、グルーバー侯爵と彼を守っている騎士だけだった。
壁際に追いやられた彼らは苦渋の顔をしても、許しを乞う事はしなかった。
「陛下!何故、分かって下さらないのですか?
この男は危険です。
犯罪者を取り込もうなどと、正常の貴族が考える事ではありません。
その牙をいつ、国に・・・陛下に向けるやも知れないのですぞ!?
最早、英雄サムエル・アルデバランの兄という誉は関係のない話なのです。」
グルーバー侯爵の言葉を真剣に聞いていた国王アルベールは、悲しそうな顔で首を振った。
「グルーバー。
お前の国を憂う気持ちを嬉しく思う。
しかし、私はアルデバランの覚悟を知っている。
“悪魔”と言われようと、自領を危険に晒そうと領主としてダチュラを最大限に守っている彼らの行いは国全体をも平和に導いている。
安全だけではない。
貿易も生産も金融に至るまでダチュラは特質すべき街なのだ。
お前達のように、ダチュラの危険性を憂う者達の不安を取り除く事が出来なかったのは私の落ち度だ。」
悔しそうに首を横に振るうグルーバー侯爵を国王アルベールは諭そうと前に進み出た。
が・・・、それをクロスが引き止めた。
「《国を憂い、ダチュラの危険を訴える。
如何に自分が悪者になろうとも、私を・・・クロス・アルデバランを始末しなければいけない。》
・・・そんな可愛げなど、この男にはないさ。」
せせら笑うクロスに国王アルベールは首を傾げた。
「どう言う事だ?」
「報告したな。
先の誘拐事件の主犯とされるミア・サットン伯爵令嬢の事を。」
まだ、話の先が見えない国王アルベールに視線を向けるとクロスは話し始めた。
「可の令嬢が悪意を持って犯行を行なった事は間違いなく。
処罰される対象である事は明白であるが、私達は疑問に思っている。
社交会や茶会に勤しむ花畑にいた令嬢が、あんなゴロツキ共と知り合う事は簡単ではない。
誰か、ミア・サットンにゴロツキ共を紹介した人間がいる。
当然、サットン家自体を疑ったさ。
当主や姉、その嫁ぎ先。使用人まで全て調べたよ。
しかし、サットン家は勿論の事、姉の嫁ぎ先である侯爵家に怪しい点はなかった。
貴族らしい貴族・・・国に従順な一般的な貴族だった。
では、誰がミア・サットンにゴロツキを斡旋した?」
「まさか・・・。」
息を飲み壁際を見つめた国王が見たのは感情を捨て去ったグルーバー侯爵の姿だった。
「今更、言い子ぶるなよ。グルーバー。
被害者であるキャロル・オルコットが監禁されていた家だがな。
アレはお前の妾の生家だろう?
最も、その妾とやらも姿を消し、現在は何処にいるか生きているのかも分からないが、かつてお前の屋敷で働いていた庭師に聞いたぞ。
ダチュラから来た女がグルーバー侯爵家のメイドになり、グルーバー侯爵の妾になったと。
残念ながら、ダチュラでは家の1軒1軒の所有者並びに住んでる人間の情報を管理しているんだ。
何せ“犯罪の街”だからな。
一般の市民に隣人が安全か危険かを知らせる重要性がある。
ユラ・リンリン・・・妾から家の情報を得たな。」
無表情だったグルーバー侯爵であったが妾の名を言われると獣のようにクロスを睨みつけた。
「だったら、なんだと言うのだ。
そのメイドがダチュラの出身だから私に罪があると?
バカバカしい。」
「ちなみに、ミア・サットンからは騎士から紹介されたと聞いてます。
そう、君ですよ。
ヤン・ノヘル。
グルーバー侯爵邸で行われたダンスパーティーで声を掛けられたそうです。」
クロスと国王アルベールの後ろからチェイスが声をかけた。
それにはグルーバー侯爵とヤン・ノヘルと言われた騎士が身じろぎをした。
「そりゃ、貴族の小娘ですもの。
捕まって、怖ーい大人に怒られればペラペラ話しちゃうわよ。」
クスクス笑うソニア・ポルックスに同調するようにクロスは肩を竦めた。
「お前らに狙いを定めて調べ始めてみれば、出るわ出るわ。
不正貿易に詐欺、騎士を使っての暴行・殺人。
我が領でも犯罪に手を染めているそうじゃないか。
証明できる物なら沢山あるぞ。
どうせ、全てがバレると理解して、先に私を始末する気だった。
はたまた、心中でもする気だったのかは知らないがね、よくも私を“悪魔”と簡単に言ってくれたものだね。
お前も所詮は“悪魔”が発した光に群がる蛾と同じだったとはな。」
「黙れ!」
蛾と呼ばれ、激昂したのかグルーバー侯爵はそれまでと違い顔を真っ赤にして叫んだ。
しかし、その後の言葉が続かないのが分かると国王アルベールは厳しい顔でグルーバー侯爵を睨みつけた。
「どうした。グルーバー。
反論していいのだぞ。
そうでないのなら、私は認めると認識する。」
グルーバー侯爵は力強く噛み締めて血が滲んでいる唇を歪めた。
「例えそれが本当だとしても、全ての元凶はアルデバラン侯爵の思想が国を歪めているのです。
犯罪であろうと、それは領地を預かる貴族にとっては収入の1つです。
それをアルデバラン侯爵は独り占めしているのと同じ事。
私は、国のバランスを考えればこそ
ダチュラの存在を危険視しているのです!」
グルーバー侯爵の言い草に呆れる面々の中、静かに怒っていた人間が声を上げた。
「ふざけるのも大概になさい!!
犯罪が財産とでも言うのですか!?
夫やダチュラの貴族達、領民達の覚悟を知らずに何を自分の欲望を押し付けているのです!!
恥を知りなさい!
クロス・アルデバランは高潔にして尊き貴族です。
己が“悪魔”と揶揄されようと、群がる犯罪が重石になろうと、領地や領民を1番に考え自分の犠牲を置き去りにしても仕事に満身する人間です。
貴方のような歪んだ欲望を正義と宣う人間と同じにしないで下さい!」
普段、クロスの隣で微笑んでいるエステルの怒りに仲間であるダチュラの面々も驚きながらも彼女の言葉に同調した。
「悪者になる覚悟って簡単じゃないんだよね。
まぁ、女性は危険な男も好きだろう?」
「ロウ・・・貴方って、やっぱり残念な男ね。
全く、他人は好き勝手言ってくれるわ。
クロスに振り回される私達の身にもなりなさいよ。」
「でも、ソニア姉様。
いつも、とっても楽しいわ。」
「そんな君だから、僕は結婚したんだよ。」
「はいはい。惚気ないの。
グルーバー侯爵・・・妹を怒らすなんて、よっぽどですよ。」
ロウ、ソニア、ナディア、カミロ、ウィリアムがいつもの様に軽口を叩いているとチェイスがクロスの隣に立った。
「私達は、いくら馬鹿にされようと大概は気にしません。
何故なら、他人の評価など意味がないからです。
我らダチュラの貴族がアルデバラン家に親愛と忠誠を捧げるのは、私達以上に彼らが我々を愛してくれているからです。
領主の愛に応えるのがダチュラに住む者の覚悟です。」
そんな彼らを前にクロスは溜息を吐き苦笑した。
「私が統治しようが、誰がしようがどうでもいいのさ。
領民が平穏に暮らせるのなら、領主など誰がしても同じだ。
しかし、あの街は一筋縄ではいかないぞ。
グルーバー侯爵よ。
面倒事を引き受けてくれるのなら、私はいつでも引っ込むさ。
領民が受け入れてくれるかは知らんがね。
あぁ、ダチュラは“犯罪の街”だ。
くれぐれも背後は気をつけられよ。
この状況から逃げられればの話だが。」
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