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己の価値を知る男は好かれる
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夕日が翳りゆく道を一台の馬車が走っていた。
馬車が停まったのは庭のついた小さな屋敷だった。
外に立っていた門兵が馬車の扉を開くと男・・・この国の宰相であるジルベール・オランド公爵の姿があった。
「お帰りなさいませ。旦那様。」
「うむ。客人は到着しているか。」
「はい。1時間ほど前にお付きになりました。」
門兵の報告に無言で頷くとオランド公爵は屋敷に足を踏み入れた。
玄関に迎え出た執事に帽子と手袋を手渡すとオランド公爵はリビングに案内された。
「先程より、皆様でお寛ぎにございます。」
「そうか。万事滞りなく頼む。」
「承知いたしました。」
オランド公爵がリビングに入るや目にしたのは、昔馴染み達がグラスを片手に談笑している姿だった。
「やあ。邪魔をしている。」
その内の1人・・・クロス・アルデバランがグラスを掲げて微笑んでいた。
「全く・・・何が、“やあ”だ。
明日から裁判だと言うのにお前達ときたら・・・。」
「良いじゃない。
久しぶりの王都だもの。
楽しまなきゃ、損だわ。」
ソニア・ポルックスの差し出す手の甲にキスをするとオランド公爵は苦笑した。
「お久しぶりですね。
お元気そうで何よりです。
奥様もお健勝で?」
「あぁ、元気だ。
君も相変わらず美しいよ。
エステル。」
立ち上がってハグをしたオランド公爵とエステルはソファーに座った。
「正しい挨拶が出来るのはエステルだけか?」
「なんせ田舎者なもんでね。
それに挨拶よりも酒の方が良い。」
呆れ顔のオランド公爵に言うチェイスの一言で部屋中が笑いに包まれた。
「こんな状況下だが、会えて嬉しい。
明日は午前中から裁判が始まる。
多くの貴族が観に来るだろう。」
「やはり、見せ物か。」
カミロ・ポルックスは鼻で笑いワインを口にした。
「それならば、しっかりとお洒落しましょうね。」
妻のナディアが微笑むと残り2人の女性は大いに頷いた。
そんなダチュラの面子の様子を見れば、オランド公爵は安心したように自身もワインを楽しんだ。
「余裕がある様なら、明日は大丈夫だな?
それでも裁判期間は3日間を予定されている、奴らは何をしてくるか分からんぞ?」
「それなら、それで構わん。
ダチュラは何も困らんよ。
我らの覚悟は国王に伝えてあるからな。」
なんとでもなるとグラスを煽ったクロスにオランド公爵は慌てたように立ち上がった。
「まさか、本気で独立などするまいな?!」
「そんな面倒な事はしないだろうが、今回の事でダチュラを奪い取る事でもあれば我らは引っ込むさ。
文字通り、全てを撤退させて王都との連絡は経つ事になるだろう。」
頭を掻きむしったオランド公爵は自棄になったようにワインを飲み干した。
「あの馬鹿共は知らんのだ!
我が国が如何にダチュラより恩恵を受けているのかを!
己の利益ばかりを身をって!」
「あらまぁ。」
心配そうにエステルはオランド公爵の背をさすると眉を下げた。
「そんな飲み方は体に良くないわ。
大丈夫よ。
国王陛下がクロスを手放す訳がないもの。
それに、明日は我々ではなくて彼方が可哀想だわ。」
「そうだね。
我々を追い落とそうとしているだろうに、逆に恥をかくのは、どちらかな?」
ウィリアムは隣に座っているチェイスとグラスを合わせ微笑んだ。
「男って、地方に行けば羽目を外しても構わないと想っているニワトリちゃんなのよね。
彼らが隠したい話なら沢山あるわよ。」
「ニワトリ?」
チーズを口に入れたソニアにオランド公爵は首を傾げた。
クスクス笑うとロウが答えを言った。
「脳みそが少ない。
つまり、馬鹿。」
「あぁ・・・なるほど。
!!
という事は・・・明日は。」
「荒れるだろうね。」
チェイスがニッコリと微笑むと、『それはそれで面倒だ』とオランド公爵は天井を仰いだ。
「そうだ。ジルベール。
お土産に良い酒はないか?
持って帰りたい。
探しておいてくれ。」
オランド公爵の心配をよそにクロスは呑気に土産を頼み、再び大きな溜息が部屋中に響いたのであった。
馬車が停まったのは庭のついた小さな屋敷だった。
外に立っていた門兵が馬車の扉を開くと男・・・この国の宰相であるジルベール・オランド公爵の姿があった。
「お帰りなさいませ。旦那様。」
「うむ。客人は到着しているか。」
「はい。1時間ほど前にお付きになりました。」
門兵の報告に無言で頷くとオランド公爵は屋敷に足を踏み入れた。
玄関に迎え出た執事に帽子と手袋を手渡すとオランド公爵はリビングに案内された。
「先程より、皆様でお寛ぎにございます。」
「そうか。万事滞りなく頼む。」
「承知いたしました。」
オランド公爵がリビングに入るや目にしたのは、昔馴染み達がグラスを片手に談笑している姿だった。
「やあ。邪魔をしている。」
その内の1人・・・クロス・アルデバランがグラスを掲げて微笑んでいた。
「全く・・・何が、“やあ”だ。
明日から裁判だと言うのにお前達ときたら・・・。」
「良いじゃない。
久しぶりの王都だもの。
楽しまなきゃ、損だわ。」
ソニア・ポルックスの差し出す手の甲にキスをするとオランド公爵は苦笑した。
「お久しぶりですね。
お元気そうで何よりです。
奥様もお健勝で?」
「あぁ、元気だ。
君も相変わらず美しいよ。
エステル。」
立ち上がってハグをしたオランド公爵とエステルはソファーに座った。
「正しい挨拶が出来るのはエステルだけか?」
「なんせ田舎者なもんでね。
それに挨拶よりも酒の方が良い。」
呆れ顔のオランド公爵に言うチェイスの一言で部屋中が笑いに包まれた。
「こんな状況下だが、会えて嬉しい。
明日は午前中から裁判が始まる。
多くの貴族が観に来るだろう。」
「やはり、見せ物か。」
カミロ・ポルックスは鼻で笑いワインを口にした。
「それならば、しっかりとお洒落しましょうね。」
妻のナディアが微笑むと残り2人の女性は大いに頷いた。
そんなダチュラの面子の様子を見れば、オランド公爵は安心したように自身もワインを楽しんだ。
「余裕がある様なら、明日は大丈夫だな?
それでも裁判期間は3日間を予定されている、奴らは何をしてくるか分からんぞ?」
「それなら、それで構わん。
ダチュラは何も困らんよ。
我らの覚悟は国王に伝えてあるからな。」
なんとでもなるとグラスを煽ったクロスにオランド公爵は慌てたように立ち上がった。
「まさか、本気で独立などするまいな?!」
「そんな面倒な事はしないだろうが、今回の事でダチュラを奪い取る事でもあれば我らは引っ込むさ。
文字通り、全てを撤退させて王都との連絡は経つ事になるだろう。」
頭を掻きむしったオランド公爵は自棄になったようにワインを飲み干した。
「あの馬鹿共は知らんのだ!
我が国が如何にダチュラより恩恵を受けているのかを!
己の利益ばかりを身をって!」
「あらまぁ。」
心配そうにエステルはオランド公爵の背をさすると眉を下げた。
「そんな飲み方は体に良くないわ。
大丈夫よ。
国王陛下がクロスを手放す訳がないもの。
それに、明日は我々ではなくて彼方が可哀想だわ。」
「そうだね。
我々を追い落とそうとしているだろうに、逆に恥をかくのは、どちらかな?」
ウィリアムは隣に座っているチェイスとグラスを合わせ微笑んだ。
「男って、地方に行けば羽目を外しても構わないと想っているニワトリちゃんなのよね。
彼らが隠したい話なら沢山あるわよ。」
「ニワトリ?」
チーズを口に入れたソニアにオランド公爵は首を傾げた。
クスクス笑うとロウが答えを言った。
「脳みそが少ない。
つまり、馬鹿。」
「あぁ・・・なるほど。
!!
という事は・・・明日は。」
「荒れるだろうね。」
チェイスがニッコリと微笑むと、『それはそれで面倒だ』とオランド公爵は天井を仰いだ。
「そうだ。ジルベール。
お土産に良い酒はないか?
持って帰りたい。
探しておいてくれ。」
オランド公爵の心配をよそにクロスは呑気に土産を頼み、再び大きな溜息が部屋中に響いたのであった。
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